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【光村コラム】都市のコミュニケーションの未来を考える

※本記事は2021年10月21日にBASE Qメールマガジンより配信された内容を転載しております。

皆さん、こんにちは。BASE Qの光村です。
先日、私が所属している三井不動産から1本のニュースリリースが発信されました。

「未来特区プロジェクト by MitsuiFudosan Co.,Ltd.」を開始
https://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/news/2021/0927/

webサイトもあります。
https://www.miraitokku.com/

じつは三井不動産、2021年が創立80周年にあたっております。その記念事業の一環で「未来特区プロジェクト」がスタートすることになり、私も参加しております。
このプロジェクトでは都市の本質とその未来を真剣に考えるのとともに、そこから新たな事業を生み出すことを目指しています。テーマとして「生存」「コミュニケーション」「文化」の3つを掲げており、私が担当するのは「コミュニケーション」です。

今回のメルマガでは、私がこのテーマに込めた想いについて語りたいと思います。

都市は「イノベーションを生み出す」ために存在する

そもそも「都市」とはなにか。
私流の解釈では「人類がイノベーションを生み出すために考えた生活の形」です。

ヨーゼフ・シュンペーターがイノベーションを「新結合」と定義したように、イノベーションはゼロから生まれるわけではなく、既存の知や価値が新たな結びつき方をすることによって生まれます。そしてそれは、多くの場合、人と人が出会い、対話し、そこから新たな気付きを得ることによって生まれます。

となると、人と人が出会いやすい環境、対話しやすい環境が「イノベーションが生まれやすい場」と定義できるわけです。つまり、高密度に人が集積する都市という空間は、イノベーションの創出に適した空間であると言えます。

リンダ・グラットンの名著『LIFE SHIT』の中にも、同様の記載があります。
彼女は人類の歴史における都市化の進行を「イノベーションの機会に近づくための行動」と評し、「都市には、質の高いアイデアと高度なスキルをもち、自分と同様の高スキル層の多い町に住みたいと思う人たちが集まってくる」「そのような町でこそイノベーションが急速に進むことを知っていて、ほかの聡明な人たちのそばで暮らし、互いに刺激し、支援し合いたいと考える」と述べています。

コロナ禍によって失われた「近さ」の利点

インターネットの普及によって、人類は「遠さ」という課題を克服しました。
古くはメールやSNS、昨今で言えばZoomやメタバース等の手段により、遠く離れた人とのコミュニケーションは格段に容易になりました。

「遠さ」を克服したとはいえ、「距離」という概念がコミュニケーションに影響を及ぼさなくなったわけではありません。「遠さ」とは反対の「近さ」は依然として、コミュニケーションに有利に働くと考えられています。
近くに住んでいる人のほうが出会いやすいし、頻繁に会うこともできる。そうする中でお互いのことをより理解し、対話が促進される。私たちが体験上、よく知っているこの構造こそが、都市からイノベーションが生まれやすいと言える最大の根拠です。

しかしコロナという災禍は、都市から「近さ」の利点を奪いました。
より正確に言えば、近くには住んでいるものの、その近さを活かしたコミュニケーションの方法を奪ってしまったわけです。結果、私たちはリアルな空間で起きる偶発的な出会いや、対面して会話することによって得られる相互理解と関係深化の機会を失ってしまいました。

グローバル化が進んだ世界では、世界のどこかで発生した新たな感染症を抑え込むことは難しく、パンデミックへと拡大するリスクが極めて高いことを、私たちは学びました。そして「密」を基本とした従来の都市型生活が、パンデミックに対して極めて脆弱であることも、改めて意識されることになりました。

直近の研究では、今回のCOVID-19と同程度の影響力を持つパンデミックが発生する確率は「1年あたり2%」あるとされています。今後も一定の期間ごとに、このような事態に直面し得ることを考えれば、私たちの都市における生活様態を根本的に見直し、パンデミックが発生しても影響を受けにくい形に変えていくべきだと、私は思います。

オフライン時代のコミュニケーションに本当に満足していたか?

都市における「近さ」を活かしたコミュニケーションは、イノベーションの源泉である。
しかしパンデミックというリスクは、そのコミュニケーションの機会を奪い、イノベーションが生まれる機会をも奪う。
ゆえに私たちは、「近さ」に依存しない新たなコミュニケーションの形を生み出さなければならない。

これが今回、私が「未来特区プロジェクト」で「コミュニケーション」というテーマを考えるにあたっての出発点です。

新しいコミュニケーションにおいては、従来よりも確実にオンラインの比重が高まるでしょう。しかし上述のとおり、単純にオンラインに移行するだけでは「出会い」や「相互理解」「関係深化」という価値を充足させることが難しいというのも、この1年半の私たちの実感です。これをどう克服するか。

ここで少し立ち止まって考えたいことがあります。
果たして私たちは「オフライン時代」のコミュニケーションに、本当に満足していたのでしょうか?

たしかにコロナ禍以前、東京では毎日、多くのイベントが開催され、そこで新たな人との出会いが生まれていました。そこで出会った人と対話を繰り返し、相互を深く理解する。そして、その人と新たなプロジェクトを立ち上げたり、ビジネスを始めたりという関係性に発展していくこともありました。

しかしその発生確率って、かなり低いものじゃありませんでしたか?
みんなが「失った」と感じているオフライン時代のコミュニケーションって、本当にそんなにいいものでしたか?

「差し障りがある会話」にいかに踏み込めるか

コロナ禍以前にさかんに行われていたイベントと、そこでの出会いを思い出してみましょう。
まあ、最初は名刺交換をするわけです。続いて二言三言、会話を交わす。そして、次なる出会いを求めて懇親会場をまたウロウロする。
翌朝、パンパンになった名刺入れを眺め、その中に印象に残っている人、今後も関係を続けていきたいと思う人が、果たしてどれだけいたでしょうか?その後、実際に連絡を取り合う仲に発する人が、どれだけいたでしょうか?

たしかに、以前は出会いの場が多くあり、コミュニケーションのオンライン化によってその多くが失われました。ただ、ノスタルジーを排して記憶を探ったとき、オフライン時代の出会いやコミュニケーションも、そこまで満足がいくものではなかったのではないかというのが、私の疑問です。

今回、「未来特区プロジェクト」で都市の新しいコミュニケーションというテーマに向き合うにあたり、私はこの問題も一気にアップデートしたい と考えています。
オンラインだからこそできる出会い、オンラインだからこそできる関係深化。その可能性を探っていきたい、

私は、それを考えるにあたってのキーワードは「差し障りが『ある』会話」だと思っています。
人が人に出会い、仲良くなろうするとき、そこにはなんらかの「踏み込み」があるはずです。自分の強い想いを伝える。相手から強い想いを伝えられ、それに共感する。「差し障りが『ない』会話」に終始している限り、そのような関係性に発展することは難しい。

とはいえ、では初対面の人といきなり差し障りがある会話をするかと言えば、それも従来の常識からすればあり得ない話ではある。特に、オンライン上での会話でそんな踏み込みができるかと言われると、難しいというのが普通の感覚でしょう。

でもですね、「常識」や「普通」を打ち破ってこそのイノベーションですよ。

オンラインのコミュニケーションによって、出会いの機会を増やす(減らさない)。
そこでの出会いを無駄にしない、差し障りが「ある」会話ができる仕掛けを盛り込む。

私がこのプロジェクトで実現しようとしていることを、簡潔に表現するとこうなります。
そして、これまで「オープンイノベーション」を唱えてきた私らしく、これを多くの方との「共創」によって挑戦したいと考えています。

このテーマについて、意見やアイデアがある方、ぜひご連絡をください。

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光村圭一郎(こうむら・けいいちろう)

1979年、東京都生まれ。 早稲田大学第一文学部を卒業後、講談社入社。2007年、三井不動産に転職。 ビルディング本部にて開発業務、プロパティマネジメント業務に従事。その後、2012年より新規事業担当。三井不動産初の本格的なインキュベートオフィス立ち上げを主導。2018年には、東京ミッドタウン日比谷に『BASE Q』を開設し、大手企業のオープンイノベーションを支援するプログラムの提供を開始。