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【光村コラム】「経営人材」と新規事業

※本記事は2022年6月23日にBASE Qメールマガジンより配信された内容を転載しております。

皆さん、こんにちは。BASE Qの光村です。

昨今、大企業において「次世代経営人材の育成」に関する議論が盛んに行われています。
私たちBASE Qに対して新規事業に関するご相談をいただく企業の中にも、「新規事業を通じて、次世代の経営リーダーを育てたい」というような企図を吐露される方が少なからずいらっしゃいます。

なにが「次世代」か、「経営人材」とはなにか、そもそも「経営」とはなんなのか、ということを考え出すと、それはそれで深遠な議論があるわけですが、本稿では一旦それは横に置いておきます。

どうすれば「経営人材」は育つのか

それとは別の話として、大企業の中堅・若手世代の方と話しているとよく出るのが「うちの経営陣には経営能力がない」という愚痴です。

「下から上がってきた話を捌くだけ」「会社のあり方、経営のあり方が変わってきているはずなのに、まったくアップデートされていない」などというのが、これらの世代にある種共通する感覚のようです。
私も世代やポジション的には「中堅」と位置づけられる人間ですので、このような心情はわからないでもありません。

また、新規事業に関わる仕事をしていると、別の角度から経営について考えさせられることが多いです。
新規事業は既存の本業とは異なる発想ややり方を導入していく必要があり、大企業においてそれを実現するには経営層の方々の強い意思と実践が欠かせません。
が、それが機能していない会社、現場を目撃することもあり、そんなときは「経営がもっと機能していればなあ」と思わざるを得ません(現場の担当者が頑張っている会社であれば、なおのことです)。

といった具合で、とりあえず今、大企業において「経営」というテーマが大きな曲がり角を迎えていることは間違いがないと言えるでしょう。

経営人材に求められる視野と視座

そもそも経営とはなんなのか。
これだけでもさまざまな有識者がその人なりの定義をしているわけですが、ここではわかりやすくドラッカーの言葉を借りて考えてみましょう。

ドラッカーは、企業の目的は「顧客の創造」であるといい、それを実現するために必要なものが「マーケティング」と「イノベーション」であると説きます(ものすごくざっくり説明しています)。

企業というものは、大きく分ければ「ヒト・モノ・カネ」という要素から構成されているわけですが、となれば経営者はマーケティングとイノベーションの実践のために、これらのリソースを獲得し、活用する役割を担う人、ということになります。

また、大企業の経営となると、企業の規模や守備範囲、社会的な地位などに応じてかなり広範な視野を持たなけれななりません。
組織をどのように設計し、運営するか。どんな働き方が最適なのか。コンプライアンスは。ESGは。ブランディングは。この激動の時代の「次」をどう描くのか。
これらすべてが「経営的課題」とされ、それぞれに対して責任を負う必要があります。

これ、普通に考えると結構な「無理ゲー」じゃないでしょうか。
これだけの視野と視座、そしてその担い手としての矜持を備え、大企業で経営を担い、これらの難題に立ち向かっていけるかと問われたとき、自信をもって「できる」と答えられる人は少ないと思うんですね。
先ほど申し上げたとおり、僕自身も大企業の中堅に位置する人間なのですが、少なくとも普通に日々の仕事をして、普通に管理職として出世して、ある日役員になったらこれができるようになります、という感覚はありません。
そこには大きな断絶があるように思います。

新規事業で「経営」を経験する

私は、この「管理職」と「経営者」の乖離が、非常に大きな問題ではないかと考えています。
要は、大企業のサラリーマンは管理職としての経験しか積んでいないので、経営者になりきれてないのではないかということです。

旧来型の年功序列的な人事制度は、大企業においても相当に姿を消していますが、一方で大企業の従業員が経営を強く、リアリティをもって意識するようになるのは、部門長や役員というポジションに到達してからと考えると、経営に触れるタイミングが遅すぎるとは言えると思います。

もっと若いころから経営を意識し、触れていれば、日々の経験の中から学ぶことも増えてくるはず。そうすれば少なくとも今よりは、経営者が育ちやすい環境になるのではないかと思います。

それでは、若いころから経営を意識する、経営に触れるためにはどうすればいいのか。
いささかポジショントークのニオイはしますが(笑)、私はやはり、新規事業を担うことが手っ取り早いのではないかと思います。

新規事業を担うことで獲得できる経験や能力、スキルはさまざまにありますが、仕事に対するオーナーシップや、やるべきことの優先順位の整理(転じて、「やらないこと」を決め、「やめる」ことを決断する力)、ビジョンを示して顧客やメンバーを獲得するなどは、既存の本業に担当者や管理職として従事するよりも優位に経験できると思います。
そして何より、不確実な状況において、自ら問いを立て、仮説検証を繰り返しながら答えを探していくことに対して、圧倒的な当事者意識をもって取り組むというスタンスは、まさに「次世代」の経営者にとって不可欠な経験ではないでしょうか。

社内起業以外の選択肢は

もちろん、大企業内で新規事業を興す「社内起業」だけが選択肢ではありません。
会社を辞めて自ら起業することは、より本格的・本質的に経営を実践することになりますし(社内起業では意識することが少ない資金調達などの領域では、圧倒的な経験が積めます)、経産省が推進する出向起業というパターンも有効かと思います。

また、経営者の近くで働き、彼らの思考や行動、決断を間近で体感することも、大きな学びになります。そういう意味では、大企業からスタートアップに出向したり、複業・兼業という形で起業家と接点を持つというのも、一つのやり方になりそうです。

なお、新規事業開発において、人材育成を目的とするか、事業を生むこと自体を目的とするかは慎重に見当すべき論点です。目的が異なれば、あるべきアプローチも変わります。
二兎を追う者は一兎をも得ず、ということになりかねないことにはご留意ください(悩まれている方は、BASE Qまでご相談ください)。

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光村圭一郎(こうむら・けいいちろう)

1979年、東京都生まれ。 早稲田大学第一文学部を卒業後、講談社入社。2007年、三井不動産に転職。 ビルディング本部にて開発業務、プロパティマネジメント業務に従事。その後、2012年より新規事業担当。三井不動産初の本格的なインキュベートオフィス立ち上げを主導。2018年には、東京ミッドタウン日比谷に『BASE Q』を開設し、大手企業のオープンイノベーションを支援するプログラムの提供を開始。