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【光村コラム】イントレプレナー育成における「越境」のススメ

※本記事は2023年2月3日にBASE Qメールマガジンより配信された内容を転載しております。

大企業のビジネスパーソンの成長を促す仕組みとして「越境」というキーワードが注目されています。
先日、BASE Qのスクールで講師を務めていただいている井上功さんが『越境思考』という著作を上梓されたほか、昨年も複数の著者から越境に関する本が出版されました。

一言に越境といっても、その定義や意味はさまざまなのですが、平たく言えば、慣れ親しんだ環境を離れ、
文化や風土の異なる組織に飛び込み活動することを指します。
そして、その活動を通じて刺激を受け、気づきを得、自らの成長につなげていく。
その学習効果が顕著なことから「越境学習」とも呼ばれています。

かく言う私もこの数年、大企業のビジネスパーソンをスタートアップに出向(レンタル移籍)させるサービスを
提供する企業で、「メンター」という役割をプロボノで務めています。
これまで7名の移籍者に伴走してきましたが、半年なり1年の移籍期間で、たしかに大きな成長を遂げることを実感しています。

この越境学習、特に大企業からスタートアップに越境することは、
イントレプレナーの育成にも非常に効果的であると感じています。
大企業が新規事業を推進するにあたり、その担い手となるイントレプレナーの育成は多くの企業で課題になっていると思いますが、今回はこのテーマを深掘りしてみたいと思います。
越境学習はその突破口になるのではないかと、私は考えています。

スタートアップに越境することで得られる「3つの経験」

大企業からスタートアップに越境することで、どんな体験ができるのか。
私の経験上、主に以下の3つにまとめられると思います。

①「不確実性」が高い状況で仕事に取り組む
一般に、スタートアップが取り組むテーマは不確実性が高く、
そのテーマにどのようにアプローチするのかについても正解がないものです。
社内に確立された方法論やノウハウがなく、組織的にも未成熟ですので、
常に自分で模索しながら動かなければなりません。
これは、あらゆる面で仕組みやルールが整備された大企業とは大きく異なる環境です。

②強い「will」に基づいて動く人と共に働く
特にスタートアップの創業メンバーや初期にジョインしたメンバーは、
なんとしてでもそのビジネスを成功させるという強い「will」を持っています。
大企業においては、個人のwillよりも組織のwillが優先させることが多いと思いますが、強いwillを持つメンバーと働くことで、自分自身のwillが何かを再確認することにつながります。

③より高い視座を意識するようになる
例えば大企業において担当者というレイヤーで仕事をしていた人も、相対的に組織が小さいスタートアップに越境すると、自ずと経営者に近い視点、すなわちオーナーシップを強く意識して仕事をすることになります。
依然として年功序列的な風土が残る大企業において、経営視点を持って働くことが構造的に難しい若手・中堅の社員にとっては貴重な経験となります。

ここで挙げた「不確実性」「will」「高い視座」は、スタートアップだけでなく、大企業において新規事業に挑戦するにあたっても不可欠な要素です。
しかし、大企業の新規事業担当者でこれらの要素を身につけている方は多くなく、おそらく普通に大企業に勤めているだけでは獲得しにくいものであるというのが現実なのでしょう。
そしてこれが、大企業人材が新規事業開発で苦戦する大きな理由になっているとも、私は考えています。

Qスクールでもイントレプレナーのマインド変容には力を入れていますが、大きな効果が得られる方法論としてスタートアップへの越境は有効であると感じています。より正しく言うと、越境を経験している人はQスクールでの学びが深くなる傾向があり、併用を強くおすすめしたいです。

社会・会社・自分の「常識」を疑う

大企業に長く勤めていると、知らず識らずのうちに「外」に対する関心が薄れ、今の自分の環境を「当たり前」と受け止めて、考えたり疑ったりしなくなる。このような「罠」は、すべての大企業人に共通のものだと思います。

一方、新規事業というものは、社会や会社や自分にとっての「常識」を疑い、今までになかったものを生み出していく作業です。社会・会社・自分を客観視し、猜疑することから始まると言っても過言ではありません。

ここからも、大企業に勤める人が新規事業に取り組む難しさが理解できると思います。
そして、越境によって一度、大企業の外に出て、従来の常識を相対化する機会を得ることの重要性もおわかりいただけるのではないでしょうか。

社会を相対化し、疑うことで、
普通に生活していたら見落としたり、解決することを諦めたりする課題を発見できるかもしれません。
会社を相対化し、疑うことで、
変化し続ける社会において会社が果たすべき、新たな役割が見いだせるかもしれません。
自分を相対化し、疑うことで、
自分が本当にやりたいことや、自分が得意にしていることが見えるようになるかもしれません。

このような変化と、上述した3つの経験が組み合わさることで、越境者は大きく成長していきます。

よりよい越境をデザインするための方程式

以上のような次第で、ビジネスパーソンの成長に越境が有効であり、ゆえに昨今、特に越境を支援するサービスも次々に生まれています。
となると、どのような越境が「よりよい越境」なのかを知りたくなるのが人の常。私は、以下のような方程式が成立するのではないかという仮説を持っています。

越境の質=刺激の強さ×没入度×期間×内省の質

刺激の強さは、文字通りの意味です。
ただし、必ずしも刺激が強ければいいというわけではなく、あまりに強すぎる刺激は受け止められないこともありますし、弱い刺激であったとしても、それを長い期間続けていれば得られるものは大きいと考えています。

没入度は、その越境環境にいかに集中・没入できるかという度合い。
例えば週に1回くらいの頻度の越境では、従来の常識に触れている割合が大きく、せっかくの越境の効果が薄れてしまいます。
これは、なるべく没入度が高いほうがいいと思いますが、低くならざるを得ない場合は期間を長くとることでカバーできるかもしれません。

期間に関しては、半年や1年など、ある程度長いほうがいい。
一回限りや数日という経験では、従来の常識を上書きするほどの効果は望みにくく、そのときは効果があったと感じても、いつの間にか元に戻っていることが大半です。

内省の質を左右するメンターの存在

じつは、この方程式でもっとも重要ではないかと考えているのが内省の質です。
どんな経験をしても、その経験にどんな意味があるかを考え、自分に取り込んでいかなければ、単に「いい経験をした」という感想だけで終わってしまいます。

ゆえに内省が不可欠になるのですが、これが意外に難しい。
内省という言葉からは、なんとなく「自分の内側で省みる」というイメージが湧いてくるのですが、自分の経験を客観視して、深く自問自答できる人はそう多くないからです。

そこで大事になるのがメンターの存在です。
越境者に寄り添いつつ、客観的な視点でさまざまな問いを投げかけ、越境者の思考を深めるサポートを行います。
内省の質はメンターの質によって左右されると言ってもいいかもしれません。

ぜひ越境してみてください

上に挙げた方程式は「掛け算」になっているところがミソでして、どれか一つの要素が小さかったり、場合によってはゼロだったりすると、計算結果にも大きく影響してきます。

私がメンターを務めているサービスの場合、

刺激の強さ:大企業とは大きく異なるスタートアップという環境は刺激が強い
没入度:越境中は本業の仕事には従事せず、スタートアップのみに没入
期間:最低半年。多くは1年。
内省の質:週1+αの頻度でメンターと対話

という構造になっており、なるほど、ここまでやれば成果が出るものだと感じるわけです。

越境はスタートアップに行くことがすべてではなく、海外に行く、NPOに行くなど、さまざまな方法があります。
いずれの方法も、イントレプレナーの育成に悩む経営者・管理職の方、イントレプレナーとしての成長機会を掴みたいと思う担当者レイヤーの方、それぞれにとって越境学習は検討に値する方法論だと思います。
ぜひ調べてみてください。
その上で、イントレプレナーとしてのさらなるマインド強化、スキルの獲得、ネットワークの形成等に役立つQスクールの活用も、併せてご検討ください(笑)。
2023年度のQスクールについては、後日改めてご案内させていただきます。

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光村圭一郎(こうむら・けいいちろう)

1979年、東京都生まれ。 早稲田大学第一文学部を卒業後、講談社入社。2007年、三井不動産に転職。 ビルディング本部にて開発業務、プロパティマネジメント業務に従事。その後、2012年より新規事業担当。三井不動産初の本格的なインキュベートオフィス立ち上げを主導。2018年には、東京ミッドタウン日比谷に『BASE Q』を開設し、大手企業のオープンイノベーションを支援するプログラムの提供を開始。