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【光村コラム】社内ビジコン事務局の成否を決める6つのカギ

※本記事は2022年1月20日にBASE Qメールマガジンより配信された内容を転載しております。

皆さん、こんにちは。BASE Qの光村です。

大企業における新規事業への取り組みが広まるにつれて、増えているのが企業内の新規事業提案制度=社内ビジコンです。今回は、この制度を上手く進めるためのポイントや課題についてまとめてみたいと思います。

そもそも「制度化」するか

まず、そもそも会社によって「制度化」しているかどうか、という論点があります。制度化されている会社では、例えば年に1回など決まったタイミングで社内にアナウンスされ、あらかじめ定められたフローに従って提案が吟味されます。一方、いつでも自由に提案していいという会社も存在します。

制度化することの最大のメリットは、社内への意識の浸透です。新規事業を提案するというのはそれなりにカロリーが必要なアクションですので、きっかけや締切を設定することで実際に提案する人が増える効果はたしかにあります。また、この制度が続いていくことで、徐々に企業内に「新規事業を提案すること」自体が恒例化し、ひいては企業内の文化の変革、挑戦風土の定着にも寄与する可能性があります。

また、新規事業案を審査する側にとっても、複数の案を横並びで比較できる、一定の時期にリソースを集中して確保しやすいという側面があります。審査者(一般には経営層)が不慣れな場合は有り難いと感じるかもしれません。社外の審査員を起用する場合も人を集めやすいと言えます。また、採択された担当者を異動させる等の場合も、一時期にまとまっていたほうが調整が容易と考えられます。

一方、制度化するデメリットは、タイムリーな提案ができなくなることです。変化が激しい時代において、公募開始のタイミングによっては半年、1年単位で仕掛けが遅れる可能性もあり、本当にそれでいいのか?という疑問も生じるところではあります。

いつでも提案できる形式の場合、当然このようなデメリットは存在しません。
しかし、上記に挙げたようなメリットは享受できず、一部の特定の人しか提案しないであるとか、そもそも仕組みが社内で認識されず形骸化するリスクはあります。

総じて、いつでも提案できる形式は、挑戦文化がすでに浸透し、新規事業を創出することに慣れた会社で機能すると言え、そうではない会社の場合は制度化して始めてみるのが得策と言えるのではないでしょうか。

制度設計で考える最低限の15項目

新規事業提案制度と一口に言ってみても、じつは非常に複雑かつ緻密な設計が必要です。
以下、留意すべき最低限のポイントを列挙してみます。

制度設計において留意すべきポイント
 ・ 制度化の要否
 ・ 制度の目的
 ・ 短期および中長期的な目標設定
 ・ 投入する資源
 ・ 経営層のコミットメント
 ・ 社内への浸透
 ・ 社員への啓蒙・教育
 ・ 応募社員への支援
 ・ 審査プロセスと基準の明確化
 ・ 採択後のプロセスと事業化可否の判断基準
 ・ 採択案への支援
 ・ 採択社員の人事上の取り扱い
 ・ 非採択案へのフォロー
 ・ 社外のリソースや視点の取り込み
 ・ 制度運営の体制

挙げだすとキリがありませんのでこれくらいにしておきます。これらのそれぞれに、上に書いたような論点が存在し、そのすべてをコメントしていくと一冊の本が書けてしまうほどです(ので、今回のメルマガでは詳細には触れません)。

大切なのは、これらの多岐にわたる要素には「絶対的な正解」がないということです。一応、教科書的な意味での正解や、他社での実施事例などは参考にできますが、最後は自社の文化や現状、目指したいゴールを個別にイメージしながら、自社に最適な仕組みを設計する必要があります。私たちBASE Qも、これらの制度設計の支援を担うことがありますが、個々の企業としっかり向き合いながら、最適解を探していくことをモットーにしています。

そう考えたとき、じつは新規事業提案制度を上手く進める最大のカギは、制度設計や運営を担う人たちにあるのではないか、と感じています。

一般に、大企業の新規事業提案制度の設計や運営は、経営企画部や新規事業部等の部門が担い、「事務局」というような名前で呼ばれることが多いでしょう。これら事務局の方々がいかに真剣に向き合い、取り組むかで、その会社の制度の成否は大きく左右されます。
ここからは、事業提案制度が上手く機能する事務局の条件について、解説していきたいと思います。

事務局が陥る”罠”

① 事務局に新規事業経験者が所属している
この記事を読んでいる方は、新規事業が大企業の既存事業とはまったく異なる思考や行動によって生み出されることを理解されていると思います。となれば、新規事業提案制度の設計や運営においても、実際に新規事業を経験し、既存事業との違いや、大企業内で新規事業という異色のアクションを行うことの意味について、肌感覚でわかっている人が担当することには大きな意味があると言えます。
また、このような人がいることは、制度に魂を入れると同時に、応募者にとっても制度や事務局に対する信頼感や納得感を醸成し、制度の活性化にも寄与すると考えられます。

② 支援者に徹する
大企業には新規事業に慣れた社員は少なく、応募してくる社員は少なからぬ不安や戸惑いを抱えています。となれば、事務局はこれら応募者に対して伴走し、支える存在になる必要があります。提案内容についてアドバイスをすることはもとより、彼らの所属部門や、事業案で連携すべき事業部門との調整、さらには提案者のモチベーションやメンタル面にも寄り添っていくことが求められます。
残念ながら、少なからぬ会社で事務局が、応募者の提案にダメ出しし、あたかも審査のプロセスに組み込まれてしまっている光景を目にします。新規事業は、審査のプロセスを単純化し、権限をフラットにしていくことが不可欠ですが(そうしないと、尖った提案は採択できない)、このような事務局の関与は逆効果です。

③ “クライアント”は応募者であると認識する
事務局が、社内の誰に顔を向けて仕事をするか。私は、応募者にフォーカスすべきと考えます。
たしかに、新規事業提案制度は経営層の意向によって設置されることが多く、その意味においては経営層の期待に応えていくことが求められます。しかし、制度に本来的に価値をもたらしてくれるのは、不慣れ、不利を承知で提案してくれる応募者たちです。彼らをクライアントとして捉え、顧客満足を最大化するように設計、運営していくマインドが強く求められます。
上に書いたような「ダメ出しする事務局」の場合、応募者との関係が対立構造となり、応募者が事務局に対して心を閉ざしたり、本音を隠したりすることがあります。こうなると、要は顧客のインサイトがつかめなくなっているわけですから、制度の成功など望むべくもありません。

④ 経営層の意図を深く把握する
新規事業という領域において、経営層の意図をもっとも深く正しく理解できるのは事務局です。そして、事務局が理解した経営層の意図を、適切な形で社員や応募者に伝達していく必要があります。大企業の場合、経営層も必ずしも新規事業に熟達しているわけではなく、そのコメントや指示が明瞭ではないケースも多い。そのとき、経営層と深く対話し、その真意を解像度高く理解する役割が求められます。経営層の言葉を表層的に捉え、機械的に社内に伝言するだけでは、事務局としては機能不全と言えます。

⑤ 経営層にモノ申すこともある
上述したとおり、大企業の経営層も新規事業には不慣れです。したがって、その認識や言動は、必ずしも正しくないことがあります。
そんなとき、経営層にモノ申すことができるのが事務局という立場です。現場で起きていることや、自身が考える新規事業の仕組みに関する見解などを、萎縮せずに経営層に上申すべきです。経営層も、自身が新規事業についてよくわかっていないという感覚を持ち合わせていることが多く、このような事務局からの直言は、むしろ歓迎される傾向もあることは知っておいていただきたいです。

⑥ 中期的な目線で取り組む
多くの大企業にとって、新規事業に取り組むこと自体が「新しいテーマ」になっています。つまり、社内に経験者やノウハウの蓄積がないわけです。また、社会全体で見ても「新規事業必勝のマニュアル」などは存在しませんから、企業内でつくった制度が最初から正解であることはありえず、さまざまな仮説を組み合わせながら、試行錯誤して精度を高めていく必要があります。言ってみれば、新規事業提案制度自体が、応募者をクライアントとする“新規事業”のようなものなのです。
多くの大企業では、新規事業提案制度は年に1〜2回実施されています。これは、試行錯誤の機会が年に1〜2回しかないとも言える。つまり、短期間のうちに改善やノウハウの蓄積が起こりにくい構造になっており、いい制度に育てていくためには時間が必要なのです。
このとき、事務局の担当者がコロコロ交代する、異動の度に担当者が変わるようでは、積み上げは期待できません。私は、適性のある人がある程度長く事務局を務めるような体制が理想ではないかと考えています。

まだまだ書きたいことはいっぱいあるのですが、だいぶ長くなってきましたので、今回のメルマガはこのあたりで終えたいと思います。今回の内容が好評であれば、続編も考えたいと思います(笑)。

実際には、新規事業の事務局に経験者を充てられるケースは少なく、皆さんが悩みながら務められていることはよく承知しております。そのような場合は、やはり私たちBASE Qのような、社外の新規事業の専門チームを活用いただくのが得策ではないかと思います。事務局の方々、ぜひ気軽にご相談ください。

と、最後は思いっきり営業モードになってしまいました(笑)。

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光村圭一郎(こうむら・けいいちろう)

1979年、東京都生まれ。 早稲田大学第一文学部を卒業後、講談社入社。2007年、三井不動産に転職。 ビルディング本部にて開発業務、プロパティマネジメント業務に従事。その後、2012年より新規事業担当。三井不動産初の本格的なインキュベートオフィス立ち上げを主導。2018年には、東京ミッドタウン日比谷に『BASE Q』を開設し、大手企業のオープンイノベーションを支援するプログラムの提供を開始。