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【光村コラム】「社外ネットワーク」に対する理解の解像度を上げる

※本記事は2020年8月19日にBASE Qメールマガジンより配信された内容を転載しております。

イントレプレナーの3大要素の一つ

この数年、ビジネスパーソンにおける社外ネットワークの重要性を指摘する人がが多くなっています。これは特に、新規事業に取り組む人たち(=イントレプレナー)の間では“常識”とも言える考え方で、例えばイベントに参加する動機付けとして、終了後の懇親の機会を重視している人は多いですし、コロナ禍によってそのような機会が失われてしまったことに悩む声も聞かれます。

BASE Qでもイントレプレナーの3大要素として「マインド」「スキル」と並び、「ネットワーク」を挙げています。オープンイノベーションが叫ばれる今、社外ネットワークを築くことが重要であることに疑いを挟む必要はないでしょう。

しかし、なぜ社外ネットワークが必要なのか、という問いに対して、具体的に答えることはできるでしょうか。ここが曖昧なままだと、ネットワークを広げること自体が目的化することになりかねません。
今回は、この点について考えてみたいと思います。

大切な4つの機能

イントレプレナーにとって、なぜ社外ネットワークが重要なのか、解像度を上げて整理していきましょう。
私は、次に挙げる4つの機能を求めるためだと考えています。

1.情報源
2.視点源
3.熟思源
4.熱量源

1.はわかりやすいですね。
「良質なインプットが良質なアウトプットにつながる」とよく言われますが、なにか新しい発想を生み出すためには、まず情報のインプットを増やす必要があります。
もちろんメディアや自らの体験によって情報インプットを増やすこともできますが、自分でできることには限界があります。自分がまだ知らないことを教えてくれる存在は貴重です。

2.の視点源。
情報を得たとしても、それをそのまま自分の頭の中に入れるだけでは、あまり意味がありません。情報を解釈し、整理することで、使える「知識」にアップデートすることができます。
ここで重要になるのが、情報をさまざまな切り口で解釈すること。情報というものは多面的なものですから、人によって、立場によって解釈の仕方が異なります。自分の見方だけでなく、他者の視点を通してその情報を見ることで新たな気づきを得ることができるわけです。
これも、自分の中に多様な視点を入れて、想像を通じて複数の解釈を行えるように努めることはできますが、社会は多様であり、それでは補えないような視点が存在するのも事実。特に新規事業においては、一般的な人たちが見落としていたり、妥協していたりするところに大きなヒントがありますから、多様な視点を持つ人たちと付き合っていくことが欠かせません。

情報を得て、そこに多様な視点を与えて知識として持つ。それを促進し、そうして得た知識をさらに役立てるために必要なのが3.の熟思です。
熟思とは聞き慣れない言葉だと思いますが、簡単にいうと十分に考えをめぐらせること。そして、孔子やソクラテスの時代から、考えをめぐらせ深めるときに有効なのが「対話」であり「議論」です。
自分の頭の中で議論をすることも可能ですが、それには多大な思考力とエネルギーを必要とします。そして、それでも2.で説明した“多様な視点”が欠落するリスクがあります。
そのため、さまざまなテーマに関して対話や議論ができる友人知人の存在が大切になってきます。

最後に、4.の熱量源です。
これは端的に言えば、自分がイントレプレナーとして生きていくためにモチベーションを与えてくれる存在です。
例えば、よきライバル。彼が頑張っているから自分も頑張らなければ、と思うことでモチベーションは上がっていきます。また、自分を励まし応援してくれる人がいることも、シンプルですが効果は大きい。社内の関係性だと、どうしてもそこに「評価」や「出世」という要素が絡んでしまいますが、社外ネットワークにはそのようなしがらみが存在しないことも見落とせません。

コミュニティの功罪

この4つの機能は、誰か一人に会えば満足するわけではありません。そのため、多くの人が社外とのつながりをつくり、そして広げることに努力しているわけです。
このときに役に立つのが「コミュニティ」の存在です。コミュニティとは、同じような志や価値観を持っている人たちの集まりと言えますが、自分で一人ひとり、人脈を開拓していくよりも、コミュニティに属し、そのメンバーと交流したほうが4つの機能を充足させるには効率がいいはずです。

その考え方自体は間違いではないのですが、見落としてはいけない点が2つがあります。

まず、上に書いたように、コミュニティはもともと価値観や志が一致した人たちで構成されています。ですので、そこに本質的な意味で情報や視点の偏りがないかという観点は持っておく必要があります。

例えば、新規事業の担当者だけが集まるコミュニティ。
たしかに新規事業につながる情報や気づきが多く得られそうですが、ともすれば「新規事業の立場」でのみ発言する場にもなりかねません。
大手企業内で新規事業を進めるためには常に、既存事業の立場や視点を考慮する必要がありますが、新規事業担当者だけが集まり、その視点だけで語っていると「既存事業のやつらは、わかってないよな~」という愚痴の言い合いで終わってしまいます。これでは建設的ではありませんし、むしろコミュニティに属することで悪い影響を受けそうです。
よきコミュニティは、価値観や志の一致を大事にしつつ、情報や視点の多様性にも考慮しますし、そのような観点を持って議論をすることに長けた人が所属しています。どのコミュニティに属するかを考える際の物差しです。
また、複数の異なるコミュニティに所属することで、この偏りから逃れるという方法も有効でしょう。

give firstの精神

もう一つのポイントは、自分もコミュニティに対して貢献者でなければならない、ということです。
便宜上、ここまでは「自分がコミュニティから何を得るか」という書き方をしてきましたが、他のメンバーからすれば、あなたからも何かを得ることが期待されているわけです。
自分がコミュニティに何を提供できるのかは常に考えて置く必要がありますし、そのようなマインドを持つことが重要です。

さらに言えば、昨今のコミュニティ関連の議論で重視されているのが「give & take」ではなく「give first」の精神。つまり、何かを得られるから何かを提供するのではなく、見返りを期待せずに自分ができることはなんでもやります、という考え方。しかもこれを、義務感ではなく自然に行えることが大切というものです(義務感や”やらされ感”では続かないでしょう)。
そのようにコミュニティに貢献し続ける人が多くなれば、そのコミュニティは持続し、成長し、結果的に自分が得るものも多くなっている。逆に、「まずtakeを得てからgiveを考える」という考え方の人が多いコミュニティでは、みんなが牽制しあい、これまた建設的な関係性になりません。

社外ネットワークやコミュニティは「簡単」ではない

このように考えたとき、社外ネットワークを持つこと、コミュニティに参加することが、決してイージーな話ではないことがご理解いただけると思います。裏返せば、社外ネットワークを提供する、よきコミュニティを運営する人たちは、このようなところまで考えているとも言えます。
BASE Qでも、Qスクールの受講者同士のコミュニティや、今秋から始まるイントレプレナーのマインド覚醒コミュニティ企画が動いていますので、興味のある方はぜひお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

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光村圭一郎(こうむら・けいいちろう)

1979年、東京都生まれ。 早稲田大学第一文学部を卒業後、講談社入社。2007年、三井不動産に転職。 ビルディング本部にて開発業務、プロパティマネジメント業務に従事。その後、2012年より新規事業担当。三井不動産初の本格的なインキュベートオフィス立ち上げを主導。2018年には、東京ミッドタウン日比谷に『BASE Q』を開設し、大手企業のオープンイノベーションを支援するプログラムの提供を開始。