BASE Q

2024

2023

2022

2021

【光村コラム】【後編】オープンイノベーションを「バブル」で終わらせない。

※本記事は2019年5月29日にBASE Qメールマガジンより配信された内容を転載しております。

『月刊BASE Q』では通常、光村執筆のコラムをお届けしていますが、今回は特別編として、光村が登壇したトークセッションを書き起こし記事を配信します。
本セッションは、2019年6月4日にBASE Qで開催された『Japan Open Innovation Fes』で行われたもので、株式会社フィラメント代表取締役の角勝氏との対談となっております。
記事の前編はこちらからご覧ください。

失敗したくない、内向きでありたいという大企業のリアル

©eiicon

光村:大企業内のリアルな話をすると、新規事業部に行く人に対する社内の微妙な感情というものがあるような気がします。

これはある方から聞いた話ですが、この方はいわゆる既存事業のエースだった。で、自分で志願して新規事業部に行くことになった。自分でやりたいことがあったんですね。ところが、上司や先輩から心配されたらしい。「せっかく出世ルートに乗っているのに、新規事業部に行くなんてもったいない」「新規事業に挑戦して失敗したら、お前のキャリアに傷がつく」と。

:そんな忠告をする人がいるんですか?

光村:いるらしいんです。その方は、そんなことを言われても意に介さずなんですが、大企業内にそんな空気があるとすれば、やりたいことがあると声を挙げるのも簡単ではないのかもしれない。

少し話が飛びますが、僕、働き方改革をめぐる社会の動きって、結果的にはよかったなと思ってるんです。本質的な生産性向上に関する議論が置き去りにされたまま、残業削減とか時短とか表層的な取り組みばかり注目されるのはナンセンス。も、少なくとも意味のない長時間労働はダサいことであるとか、それを強要することはNGなんだという空気は広まったじゃないですか。

イノベーションとか新規事業もそれと同じで、少なくともそれに取り組む人間の足を引っ張っちゃいけない、できれば応援すべきという空気になってくれればいいのかなと。そういう空気を作り出せればと思って、こういう場で発言したり発信したりするようにしてるんです。

:大企業内の空気という話でいうと、これだけオープンイノベーションと言われながらも、本音では内向きでありたいという部分があるんじゃないかと思っています。

光村:本音ですね。

:そう、本音。最近、若手や中堅の社員が積極的に社外と関わろうとする動きが盛んじゃないですか。これはある会社であったことなんですが、若者が上司にそういう活動をしたいとお伺いを立てる。そもそもそんなこと、上司に相談するなよという気がするんだけど(笑)。で、上司は「社外とつながることも大切だけど、大企業には社内に眠っているパワーやリソースがいっぱいあるんだから、それを活用することをまず考えては」と答えたらしい。

光村:ほう。

:たしかにそういう側面はあるけど、じゃあ同時にやればいいわけだし、少なくとも外に出ようとする動きを止める必要はないわけじゃないですか。

光村:たしかにそうですね。

:実際、大企業内にリソースがあると言ったって、そんなに簡単に使えるわけじゃない。冒頭に言ったように「自社でできない」という前提があるからオープンイノベーションという選択肢が浮上してくるわけだから。
たしかに、大企業内にはリソースがあります。それを本当に上手く活用できるなら、オープンイノベーションは必要ないかもしれない。でも、実際にはそれを阻害する要因がある。一番大きいのは「人」の問題。

光村:新しいことに取り組みたくない、リスクをとるのは怖い、という人の感情ですね。

:そう。リソースを使うも使わないも、結局最後は人の判断ですよ。頼んだから貸してくれる、正論だから必ず通るというのものではないのが、大企業の今の現実でしょう。

大企業のリソースは「可用性」で評価する

光村:同じような問題が、最近流行のアクセラレーションプログラムにもあると思っています。 今行われているアクセラレーションプログラムって、概ね大企業がスタートアップとコラボレーションするために公募する形ですが、大企業側はスタートアップにアピールするために自らの持つリソースをPRすることがほとんどです。

一方、僕はスタートアップから相談を受けることも多いですが、どこそこの大企業のアクセラレーションプログラムに参加したけど、意味がなかったという声を聞くことも少なくないです。

その要因としては、このセッションの最初のほうにも話したように、大した目的意識もないまま、モノマネのようにアクセラレーションプログラムをやったり、支援会社に乗っかっているだけの大企業が多いということがあると思いますが、リソースに関する問題もあります。スタートアップに聞くと、大企業がPRしていたリソースの多くは、実際には活用できることが確約されていないんですね。

:でもPRしているわけですよね。

光村:大企業のリソースの多くは、既存事業に紐付けられていますから、その活用の可否を決めるのも既存事業部門であることが多い。一方、アクセラレーションプログラムは新規事業部門が主催することが多いですから、両者の間に温度差があるということです。

:既存事業部も、どんな相手先とどのように活用するかが見えない中で、使えると確約するのは難しいですよね。

光村:それはそうです。ただ、アクセラレーションプログラムを主催するのであれば、そんな「出たとこ勝負」みたいな考え方ではダメでしょう。それに参加するスタートアップに対して失礼ですよ。アクセラレーションプログラムで自社のリソースをPRするなら、もっとシビアに査定するようにしなければ。

:でも、そうするとPRできるリソースがなくなっちゃいそうな気もします。

光村:普通にシビアに査定するだけだと、そうなっちゃうでしょうね。ただ、そこが新規事業部門の腕の見せどころだと思っています。

再三の登場で恐縮ですが、さっきの三井不動産のロボットの事例。建物の運営管理ロボットを開発しようとすれば、実証実験を行う場も必要だし、開発会社に対してうちのノウハウというリソースを提供する必要も出てくる。既存事業部門の協力は不可欠です。

ただ、それを「コスト削減」という文脈で訴えても、おそらく協力してくれない。なぜなら、今会社は儲かっているから。本来、こういう考え方はよくないんだけど、コストというテーマが大きなペインになってないんです。ただ、人手不足自体はすでに現場でも実感し始めているし、事業の継続性を左右しかねない重大なペインです。だから、人手不足の解消に資する話であれば、協力してくれますよね、という持ちかけ方をする必要がある。こういう事前の工夫や調整を、ちゃんとやりきっているのか、という話です。

:スタートアップとの協業という話でいうと、そもそも既存事業部門は数百億、数千億という規模のビジネスのオペレーションに責任を負っているわけだから、スタートアップと協業して数千万とか数億という話には興味を示しづらい。

光村:そもそも論、そうなんですよね。だから新規事業部門の仕事は、社内向けの調整も非常に重要になる。どうすれば協力を取り付けられるか。協力せざるを得ない環境を作れるか。 そういう地味で苦しい仕事もここにはあるわけだけど、それをやりきれるかどうかという観点からも、自分のやりたいことを持つことは大事だと感じます。それがあれば頑張れるから。

経験とナレッジを蓄積するためには

光村:しかし、今日話してきたような問題というのはこの数年、ずっと変わってないんじゃないですかね。僕らもいろいろなところで話していますが、どこか既視感がある話ばかりしている気がしてならない。

:人事異動の問題があると思ってます。新規事業部に異動してきても、数年で異動しちゃうじゃないですか。だから個人にも組織にも経験とナレッジが蓄積されてない状態だと思うんですよ。

光村:その問題は大きいですね。僕はもう新規事業領域で6年くらいやっていますが、後から入ってきた方ですでに異動されている方は多いです。

:やはり、長い期間コミットする人がいないと蓄積できないし、社外からも顔が見えないといい案件とも巡り会えないんじゃないかと思います。

光村:例えばオープンイノベーションに非常に積極的な会社の一つにKDDIがありますけど、会社としても∞Laboという取り組みを長く続けていますが、人の顔が見えますよね。今は異動してしまったけれども江幡さんという方(※)がずっと長く担当されていて。江幡さんの後任の中馬さんも非常にキャラが立っている。
※現・株式会社mediba 代表取締役社長 江幡智広氏

:オープンイノベーションって、結局外部との信頼関係じゃないですか。信頼関係は人から生じるものだから、そういう取り組みをしていかないと、どうしても形式的になってしまう気がするな。

光村:ただ、人事制度を変えるって大変じゃないですか。変えられますかね。

:一つ、いい流れがあるとすれば、本当の意味で終身雇用が終わりを迎えつつあるということですよね。経団連や大企業のトップから、そういうメッセージが発信されるようになった。働いている人たちの目線も変わっていくだろうし、変わらざるを得なくなる。

光村:自然、人事も変わらざるを得なくなると。

:そして、オープンイノベーションという考え方が、新規事業のみならず、すべての事業領域で必要になっていくという流れだと思ってます。

光村:人によっては厳しい時代に見えるかもしれないけど、ワクワクする面白い時代であるとも思います。

この記事をシェアする