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【光村コラム】【前編】オープンイノベーションを「バブル」で終わらせない。

※本記事は2019年5月29日にBASE Qメールマガジンより配信された内容を転載しております。

『月刊BASE Q』では通常、光村執筆のコラムをお届けしていますが、今回は特別編として、光村が登壇したトークセッションを書き起こし記事を配信します。
本セッションは、2019年6月4日にBASE Qで開催された『Japan Open Innovation Fes』で行われたもので、株式会社フィラメント代表取締役の角勝氏との対談となっております。

本トークセッションのポイント

・オープンイノベーションを辞書的に定義付けすれば、「自社内では起こせないイノベーションを起こすために、社外の会社や自治体、研究機関等と連携するための方法論」となる。
・さらに、「新たな事業を創るための方法論」、「既存事業の事業構造やオペレーションに付随する課題を解決の方法論」という解釈もできる。
・オープンイノベーションはバブルの様相を呈しており、本質を捉えずに形だけ踏襲するケースが増えている。支援会社に対して丸投げしたり、提供するプログラムに乗っかっているだけではまず上手くいかない。
・オープンイノベーションに取り組む際には個々人のwillが重要となる。それを養うためには、社外の価値観に触れることが大事。
・オープンイノベーションを担う新規事業部門は、社内向けの調整も大切な仕事。既存事業の協力を取り付け、新規事業との温度差をなくすことが、腕の見せ所。

SPEAKERS

©eiicon 【写真左】三井不動産株式会社 BASE Q 運営責任者 光村 圭一郎 【写真右】株式会社フィラメント 代表取締役CEO 角 勝氏

そもそもオープンイノベーションとは何か

BASE Q 光村:本日は「ブームによる不協和音 本質的なオープンイノベーションとは」というタイトルで話してみたいと思います。

こういうタイトルが付いているということはつまり、今のオープンイノベーションを取り巻く状況の中に、「ブーム」や、ともすれば「バブル」と言うべきものがあるとか、本質的ではない動きが見えているのではないかという考えが、私たち2人の中にあるということを示唆しているわけですが、まずはしっかり言葉の定義をしておきましょう。

角さん、オープンイノベーションってそもそも何ですか?

Filament 角氏:辞書的な定義をさせてもらうと、自社内では起こせないイノベーションを起こすために、社外の会社や自治体、研究機関等と連携するための方法論<だと思います。ただ、イノベーションと言っても、これも幅の広い概念なので、僕は新たな事業を創る、新規事業を生み出すための方法論というふうに考えています。

光村:僕も概ね同意なんですが、一つだけ付け加えたいです。僕は、必ずしも事業を創る、つまり新たなビジネスや売上を生み出すためだけにオープンイノベーションがあるのではなく、例えば既存事業の事業構造やオペレーションに付随する課題を解決するためのオープンイノベーションもあると思っています。

例えば三井不動産の場合、建物の運営管理は我々の本業なんですが、多くの業務を人手に依存しているという現実がある。将来的な労働力不足を考えると、これは大きなリスク、課題と考えられるわけです。となると、いかに業務を自動化、無人化していくかという話になるんですが、三井不動産は単独ではロボットやドローンを開発したり運用したりする能力を持っていない。そこで、これらの技術を提供してくれる社外のパートナーとオープンイノベーションをするという必要性が出てくる。

これは、必ずしも新規事業や新たな売上につながるわけではないけれども、必要な活動であると理解しています。

:なるほど。今、オープンイノベーションが非常に盛り上がっている中で、オープンイノベーションでなければならない理由というのはあるんですかね?

光村:さっき、角さんは「自社内では起こせない」という定義をしたけれども、これも細かく見たほうがいいなと。

先ほどの例でいうと、三井不動産は本当にロボットやドローンを自社で作れないのか、という論点があります。新たな人材を獲得する、大きな予算をかける、長い時間をかける、こういうことをすれば、必ずしも不可能ではないかもしれない。しかし、それが現実的ですか?戦略的に正しい判断ですか?ということかと思います。

:不動産会社である三井不動産がロボットやドローンという話だと、さすがに唐突感がありますが、似たような話は、特に技術力のあるメーカーであればしょっちゅうある。社外と連携しなくても、中にリソースはあるし、自分で開発すればいいじゃないかと。

しかし、外部の環境変化が激しいときに、時間をかけて内部だけで取り組んで、市場は待ってくれるんですか?競合に勝てるんですか?そこに人的リソースや資金を投入することが合理的ですか?という話です。加えるなら、本当に自社だけでその技術を完成させることができるんですか?という観点も必要です。

つまりオープンイノベーションには、時間を買う、コストを抑える、社外にあるリソースをある程度確実に手に入れる、という考え方が含まれているということですね。

光村:今、会場から「オープンイノベーションと業務委託は何が違うのか?」という質問が出ました。これに答えるとするならば、「お互いのリソースを持ち寄る」と、「不確かなものに挑戦する」という要素が、オープンイノベーションにはあるのだと思っています。

先ほどのロボットの例ばかりで恐縮ですが、三井不動産が建物の運営管理に役立つロボットを社外と連携して開発しようとするときに、私たちは私たちで開発会社に対して管理に関するノウハウを提供しているわけです。私たちが知っていて、彼らが知らないことがあるならば、それを提供して前に進めましょうという考え方です。

:一方のリソースを使うだけでなく、相互にリソースを持ち寄る発想ですね。

光村:また、まだ誰もやったことがないようなプロジェクトの場合、開発のプロセスが不明確で、進行する中で想定外のことが多く起きる。わかりやすく言うと、事前に作成する見積書に表せないようなことが頻発する。受発注の関係だとこういうときに身動きがとれなくなってしまう。

:仕様書で決めきれない不確かなものを、ともに創りたいと願う人たちが一緒になって創っていくということですね。

オープンイノベーションはバブルなのか?

光村:そんな形でオープンイノベーションの定義ができたところで、本題に入りましょう。角さん、ズバリ聞きますけど、今の日本の状況ってバブルですか?

:バブル気味な状況が一部あるとは思いますね。本質を捉えず、形だけ踏襲する人が多いように感じます。

光村:どういうことでしょうか。

:よくあるパターンが、会社の中でたまたまオープンイノベーション部とか新規事業部のような部署が設立され、そこにたまたま異動してきた人たちが、よくわからないまま周囲のモノマネをしているようなやつですね。

光村:オープンイノベーションという言葉が一般化して、だいたい5〜6年くらいでしょうか。多くの大企業でそのような部門が立ち上がっているのは確かですね。

:昔は産学連携のことをオープンイノベーションと言っていたんですね。しかし、オープンイノベーションで求めるものが技術だけでなく、ビジネスモデルや人材など多彩になり、相手先も大学や研究機関ばかりではなくスタートアップなどにも広がってきた。そして、それをサポートするという仕組みもどんどん増えています。フィラメントもBASE Qもその一部かもしれないけど。

光村:そうですね。僕がそういう状況の中で気になっているのが、大企業の「丸投げ」とも言える態度です。オープンイノベーションを支援する会社に対して、よくわからないけど丸投げしたり、彼らが提供するプログラムに乗っかっているだけ、という姿を見ることがあります。これは、まず上手くいかないでしょう。

BASE Qでも大企業の支援プログラムを提供していますが、僕らは常に「伴走者」であると言っています。つまり、大企業の担当者が当事者意識を持って取り組んでくださいと。そうであるなら、伴走者として支援しますという言い方です。

:そもそも、なんのためにオープンイノベーションをやるのかという整理が曖昧な会社が多い。なぜ今、自社でイノベーションが必要なのか、そこからどんなことを生み出したいのか。そもそもオープンイノベーションだって、イノベーションを起こすための選択肢の一つであり、先ほど話したとおり、オープンにしないでやることだってあり得るわけです。「オープンイノベーションをやる」ということ自体が目的化し、教科書に書かれているメソッドをなぞることを目指しているような動きが目立ちます。

光村:この問題は、大企業という組織レベルだけでなく、そこで行動する個人レベルにも共通するものだと思っています。率直にいって、大企業でオープンイノベーションを担当している人の中で、「やりたいこと」を持っている人がどれくらいいるのだろうか、という疑問があります。そこが曖昧だと、当事者意識は育たないんじゃないかと思ってるんですが。

:日本のサラリーマンの課題ですよね。そもそも、新規事業部やオープンイノベーション部に、自ら希望して異動する人って珍しいじゃないですか。

光村:僕は「志願兵」ですけどね。

:それがそもそも珍しいわけですよ(笑)。嫌々とまでは言わないけれども、特に目的意識がなく異動してきて、在籍している間にも目的を見つけられないという人も多いんじゃないですか。少なくとも、このような部署に異動してくることが、「勝ち組」「出世ルート」とは思われてないのが現状ですよね。

光村:日本のサラリーマンって、会社が示す戦略や方向性を忠実にトレースすることが「優秀なサラリーマンの条件」だと考えてきたわけじゃないですか。しかし、こと新規事業やイノベーションというテーマになると、そもそも会社自体がなぜ、それをやらなければならないかを言語化できていない現状がある。

大企業の経営者は、「自社のビジネスモデルが限界を迎えている」「このままでは潰れてしまう」という危機感は持っていると思いますが、それを乗り越えて「どんな社会を目指すのか」「その社会において、自社はどんな貢献をするのか」というビジョンを語れなくなっていると思うんです。ゆえに、イノベーションとか新規事業についても「潰れたくないからやる」という、ビジョン不在の取り組みになっている。だから、会社として戦略や方向性を示せないし、そこに配属されたサラリーマンも右往左往するだけになっちゃう。

:そこで、せいぜい成果を出さなければという意識から、支援会社に丸投げしたり、方法論をモノマネするような話になっちゃうんですよね。

僕は、イノベーションを起こす、オープンイノベーションに取り組むというとき、個々人のwillがもっとも重要だと思っています。会社が戦略や方向性を示せないということは、逆に言えば、自分のやりたいことをやるチャンスですよ。

意思を持つために、まずは社外の価値観に触れる

光村:どうすれば、そういう人が増えるんでしょうね。

:さっき、光村さんは優秀なサラリーマンは会社の戦略をトレースするのが上手いって話をしたじゃないですか。僕はそれに加えて、大企業が歴史を重ねる中で、どうやったらもっと稼げるか、儲けられるかということを考える人が減っちゃったという問題があると思っています。過去の人が敷いたレールの上で、黙々と働いて稼ぐというだけじゃなくて。

例えば、工場で毎日クルマを組み立てる仕事がある。これはもちろん、重要で尊い仕事です。しかし将来、クルマがなくなる社会がくれば、この仕事もなくなるし、会社も立ち行かなくなってしまう。それじゃ、あまりに悲しいじゃないですか。そうならないように、今からできることは何か考える。打てる手は打つ。そういうマインドを、もっとみんなが持つ必要があると思うんです。

光村:そのためには何が必要なんでしょう。

:やはり社外の価値観に触れることでしょう。「クルマ?いらないよね」という声は、なかなか自動車会社の中からは聞こえてこない。外に出て、そういうことを当たり前に言われる中で、考えるきっかけを作っていくんだと思います。

光村:そういう意味では、オープンイノベーションって、別に新規事業部の専売特許じゃなくなってきますよね。

:そうです。僕はもっと、オープンイノベーションが当たり前に行われる時代になってほしいと思っているんです。新規事業部も既存事業部もスタッフ部門も、みんなオープンイノベーションが必要なんですよ。別に、経営企画部や新規事業部がスタートアップに出資したりM&Aしたりすることだけではないんですよ。

光村:そういう体験を通じて、マインドとか考え方を変え、強い危機感と当事者意識を高めていく。そうすれば自ずと、自分のやりたいことが見えてくる。で、そこから自分や自社がやれることとやれないことを整理し、やれないことは社外と連携してやっていくと考えれば、これはもう自ずとオープンイノベーションになると。

:もちろん、人によって向き不向きはあるだろうし、興味の方向性も違うと思いますよ。新しいものを考えることが好きな人もいれば、今あるものの改善に取り組むのがいいって人もいるわけで。それぞれが、それぞれのやりたいことを持って、取り組めばいい。

光村:これ、「鶏が先か、卵が先か」みたいな話なんですけど、日本のサラリーマンが社外に出ていくときに、何もやりたいことがないと自己紹介にすら窮する、みたいなとこありま
せん?社名と部署名と名前しか言えることがない、みたいな。やりたいことを見つけるためには、まず外に出なければならないけれど、外と上手く付き合うためにはやりたいことがないと難しいという。

:僕、公務員時代からSNSで結構発信してたんですよ。

光村:珍しいですよね。

:うん、珍しい。基本的には歓迎されないので。でも、そこで情報発信を続けていると、他の人がやらないだけに、わかりにくい行政の世界を説明してくれる人として重宝されるようになった。そうすると、外から人が来てくれるようになるんです。だから、いきなり「私は○○がやりたいです」みたいな大げさな話じゃなくても、自分が知っていること、書けることを、外に発信するというだけでもいいと思うんですよ、最初は。

光村:最初から肩肘張る必要はないと。

:あと、例えばLinkedInのプロフィールを全部埋められるようにするとかね。最初は難しいと思うし、書いたり発信したりしても、なかなか外には伝わらないことも多いと思う。でも、そういう失敗をして学べば、次はもっと上手く発信できるようになるわけだから。

後編へ続く)

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