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【光村コラム】オープンイノベーションと「社風」の関係性

※本記事は2019年5月29日にBASE Qメールマガジンより配信された内容を転載しております。

BASE Qでは、大手企業がイノベーションを起こすための方法論としてオープンイノベーションに注目しています。ここでのオープンイノベーションとは、次のように定義しています。

オープンイノベーション

企業が自社の生存戦略上、必要としながら持っていないものを、自力で手中にするよりも早く入手するために、社外と連携する活動

自社が必要としながら持っていないものは、必ずしも技術ばかりではありません。市場性に関する仮説やビジネスモデル、顧客との接点など、さまざまな可能性が考えられます。また、それを保有している相手先も、昨今注目を集めるスタートアップだけではなく、他の大手企業や大学、研究機関、NPO、クリエイターや市民まで多岐にわたると言えます。

BASE Qもオープンイノベーションでできている

BASE Q自体もオープンイノベーションによって実現できています。
BASE Qは三井不動産と電通、EY Japanによる共同事業です。BASE Qを企画、運営する中で三井不動産だけでは足りない要素を2社に補ってもらいるわけです。
そんなBASE Qのリーダーを務めている私が意識していることがあります。それは「社風」です。

企業はそれぞれ独自のビジョンを持っているという話を、このメルマガの第一回で書きました。ビジョンと同時に、大手企業を規定する要素として社風も重要なのではないかと、私は考えています。
大手企業の社風とはなんとも不思議で、いつ、誰が、どのように定めたのかわからないものの、社員の多くが「うちの会社ってこんな雰囲気だよね」と違和感なく言えるもの。社風はその企業の経営や判断にも大きな影響を及ぼしますし、それだからこそより強固な色としてその企業に定着していくように思います。

オープンイノベーションは「掛け算」

BASE Qの運営体である三井不動産、電通、EY Japanも、それぞれ異なる社風を持っています。ここでは、どの会社がどのような社風であるというような言及は避けますが、三社三様、かなり異なる文化がBASE Qで交わっていることは確かです。

冒頭、私はオープンイノベーションを「自社が持っていないものを社外に求めにいく行為」と定義しましたが、私はここに掛け算のイメージを持っています。自社に足りないものを社外から調達して自社のリソースに足し合わせるのではなく、掛け算によって価値をより大きくしていく。これがオープンイノベーションの醍醐味と考えています。

社風に沿ったマネジメントが、チームを強くする

当然ながら足し算よりも掛け算のほうが難しく、チームに関与する企業と個人が、高い意識と自主性を持って取り組まない限り、実現することはできません。では、どのようにすればそのようなチームが作れるのか。

私はやはり、社風を意識することだと思っています。
どんなものを好ましく思い、何を疎ましく思うのか。どこまで攻めるのか。どんなときは守るのか。
いわゆる「三井不動産流」とは異なる反応が、彼らから示されることも多々あります。ただこれは、「いい/悪い」「正しい/間違っている」という話ではなく、それぞれの会社の社風に沿った、それぞれにとって正当性のある「主張」なのです。

これを否定し、三井不動産流の考え方や動き方を押し付けて、果たしてチームの個々人が気持ちよく働けるだろうか。自社に戻り、社内の人間と連携してリソースを引き出すことができるだろうか。否、というのが私の結論です。

これは妥協ではないのか

このような考えに至るまでには葛藤もありました。
仮にBASE Qが単独の企業体だった場合、BASE Qとしての意志を統一し、その理想を実現するために最適な判断と戦力の集中を行います。それに比べて、各社の社風を尊重して対応するのが、いかにも妥協しているようにも思えたからです。

しかし、私は考えます。やはりBASE Qはオープンイノベーションによって創っていく事業なのだろう、と。
つまり、三井不動産という企業としても、光村という個人としても持っていないこと、できないこと、知らないことが山ほどある。それらを補ってくれるパートナーがいて、それぞれが持ち寄るリソースを掛け算することによって、よりよいBASE Qができるのだろうと。

仮に、BASE Qが三井不動産の単独事業だったとすれば、おそらくBASE Qは今のような形で生まれていませんでした。これは妥協ではなく、よりよい選択の結果であると、今は断言できます。

連携相手を「業者」と見てしまう病

オープンイノベーションの「失敗あるある」でよく、大手企業が連携相手を「業者扱い」してしまう、という指摘がなされます。この問題の背景にも、上述のような社風を重視したマネジメントが行われていないことがあるような気がします。

大手企業は社風が確立されており、社員も皆、その社風に自信を持っている。転じて、社風が確立されていないように見える相手先を軽視し、自社の社風に沿わない言動に対してネガティブに捉えることが多いのではないか。その結果として相手先を、自社にリソースを持ち込むだけの存在に堕してしまうのではないか。
そうなれば、もはやその相手はパートナーではなく、カネでリソースを取引する業者のように見えてしまう。そこに、オープンイノベーションの本質はありません。(表面的にはオープンイノベーション=対等な立場を標榜してカネを払わない大手企業もいますから、より悪質なのかもしれません)

つまるところオープンイノベーションとは、相手のことを深く理解して、尊重しつつ、主張すべきことは主張するという、コミュニケーションの基本であるという、当たり前の話になってしまうのでした。

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光村圭一郎(こうむら・けいいちろう)

1979年、東京都生まれ。 早稲田大学第一文学部を卒業後、講談社入社。2007年、三井不動産に転職。 ビルディング本部にて開発業務、プロパティマネジメント業務に従事。その後、2012年より新規事業担当。三井不動産初の本格的なインキュベートオフィス立ち上げを主導。2018年には、東京ミッドタウン日比谷に『BASE Q』を開設し、大手企業のオープンイノベーションを支援するプログラムの提供を開始。