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【光村コラム】新規事業とワークライフバランス

※本記事は2019年4月26日にBASE Qメールマガジンより配信された内容を転載しております。

1日、どれくらい働いていますか?

こんにちは。BASE Qの光村です。
突然ですが、皆さんは1日、どれくらい「働いて」いますか?

かつて「24時間戦えますか」という言葉が流行したように、寝食を忘れて働き続ける男たちは、高度経済成長を支え、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を体現する日本の企業戦士の鑑でした。
しかし、ライフスタイルとワークスタイルの多様化が進み、「働き方改革」の大合唱が響く中、単純に「長時間労働」を称賛する姿勢は許され難いものとなっています。また、実際にそれで成果が出るような時代でもありません。

それ自体に疑いを挟む余地はないのですが、新規事業やオープンイノベーションに取り組もうとすると、さまざまな形で「理想と現実」のギャップに直面するのではないかとも思います。
新規事業部門におけるワークライフバランスや上長による労務管理は、一体どうあるべきなのか。今回はこのテーマについて考えてみたいと思います。

新規事業に必要な時間=∞

実際、大手企業で新規事業やオープンイノベーションに本気で取り組もうとすると、時間がいくらあっても足りません。

新規事業は「答えがない」仕事です。まだ世界に存在しない「答え」を探し、見つける仕事と言い換えてもいいでしょう。
答えを探すためには、まず問いを立てる必要があります。問いを見つけ、それを解決し得る仮説を考え、それを実証し、間違っていたらもう一度仮説に戻る、場合によっては一度決めた問いすらも疑い……、という果てしないプロセスを何度も何度も繰り返し、一歩ずつ前に進んでいくのが新規事業です。

また、問いを立てるにしても仮説を考えるにしても、新たな刺激と情報に出会うことが欠かせません。となるとメディアやSNSを通じて情報を入手したり、夜や休日に開催されるイベントに参加したりすることも必要になってきます。

これらの仕事に共通するのは、「○時間かけたから、これくらいの成果が見込める」という公式も存在しないこと。質や成果を求めると、自ずと費やす時間は増える方向になります。

ベンチャーは「24時間戦えますか」

オープンイノベーションの主たる相手方である、ベンチャー企業のカルチャーもあります。
彼ら、特にベンチャー企業の経営層は、時間という限られたリソースの価値を最重要視するがゆえに、まさに24時間戦っている人たちが多い。彼らとのコミュニケーションでは、休日だろうが深夜早朝だろうが、常に連絡を受け入れ、速やかにレスを返していくことが求められるのが実情です。

それができなければ、「あの大手企業はレスポンスが遅い」「ベンチャー企業と付き合うのに不向きな会社だ」というレッテルが貼られ、ベンチャー企業の仲間内で共有されかねないというリスクもあります。大手企業からすれば受け入れがたいところですが、彼らには彼らの理屈がある、ということです。

上記のような働き方は、昨今の「働き方改革」の風潮に逆行する部分が多いかと思います。たしかに「気力体力が続く限り、どこまでも働くべし」という言い方は許されませんし、それで成果が出るわけでもない。一方、単純に「9時17時」で働けばいいと言っていられない現実もある。では、どうすればいいのか。

3つのポイント

非常に難しい問題ではありますが、結局のところ以下の3つを徹底するしかないように思います。

①「業務上」の無駄を徹底的に省く
②「業務外」のアクションを、各人が心から望み、楽しめるようにする
③それでも蓄積する疲労を「適切」に解消する

①は、とにかく業務時間中の生産性を上げ、その中で生めるアウトプットを拡大するしかない、という考え方です。
無駄な会議、無駄な資料を減らすという形がイメージしやすいと思いますが、それ以外にも、社内コミュニケーション方法の改善や、使いやすいツールやサービスの導入などによって効果が出てきます。

また、そもそも新規事業チームとして「やらないこと」を明確にすることも重要です。答えがない仕事であるゆえに、どうしても多くのことに可能性を感じてしまい、なんでもかんでも追いかけたくなってしまうという側面がこの仕事にはあります。しかし、カバー範囲を無限に拡大させることはできませんし、自社として展開可能な新規事業の幅もある程度は絞れるはずです。「やるべきこと」と「やらないこと」の線を、あらかじめ引いておくことでの野放図に仕事が増えていくという流れを止めることが可能になります。

フロー状態をどう作るか

次に②です。
誤解を招きかねない表現ではありますが、上記のような働き方のすべてを「業務時間内」に収めることは、現実的には難しい。情報収集やイベントへの参加のようなアクションは、現状においてはどうしても「業務外」で行わざるを得ない部分があると言わざるを得ません。であるならば、それらが「やらされているから」「ノルマだから」というマインドに基づくことだけは避けなければなりません。

心理学者のミハイ・チクセントミハイが定義した「フロー理論」によれば、人間がその取り組んでいることに対して「真にのめり込んでいる」状態において、そのモチベーションとパフォーマンスは最大化されるとしています。
このフロー状態になるためには8つの構成要素があり、「能力の水準と難易度のバランス」「状況や活動を自分で制御している感覚」などが挙げられています。
新規事業チームとして、または個人として、このような要素をどう整えていくかは、重要なファクターになると思います。

自分なりの対処法を見つける

最後に③です。
私はこれまで6年以上、新規事業領域で仕事をしていますが、フロー状態で働いていた人たちのうち、少なからぬ人が心身の不調を訴えるのを目にしてきました。科学的、医学的な根拠はわかりませんが、知らず知らずのうちに疲労は蓄積するものだと考えたほうがいいように思います。
私自身も、フロー状態で働いているとは思いつつ、いつのまにか「不眠」が常態になっているという自覚があります。日頃は「ショートスリーパーだから」と嘯いてみても、たまに休日に起き上がれず、泥のように眠り続ける日があることを考えれば、おそらく自律神経が乱れ、交感神経が過敏になっているであろうことが、素人ながら想像できるわけです。
それを自覚した私は最近、毎朝のサウナ通いを日課にしました。東京ミッドタウン日比谷に隣接する日比谷シャンテにあるスポーツクラブに入会し、ほぼ毎日、出勤前にサウナと冷水浴を行っています。サウナには交感神経と副交感神経の働きを正常化させる効能があると言われます。そのおかげか、最近は睡眠時間が増えました。

私の場合は、「不眠」という不調を自ら認知することから、

「自律神経の乱れによる交感神経の過敏」

「自律神経を整える対策が必要」

「そうだ、職場の近くにサウナがあった」

という流れで、状態を改善させることができました。
しかし、不調の症状や対策は人によって千差万別ですし、それを自ら自覚できるとも限りません。周囲の人に指摘されて初めて気づくというケースもあるかと思います。

「なにか変だな」と思ったら素直にそれを受け止めることが必要です。また、新規事業チームや上長としては、それに適切な対処ができるよう、なるべく柔軟な働き方、時間の使い方を許容していくことが大切になると思います。

新規事業チームとして、新しい働き方を模索する

繰り返しになりますが、新規事業部門だからと言って「倒れるまで働け」、と言っているわけではありません。しかし、この領域で本質的に活動しようとする場合、どうしても「普通の働き方」の枠を越えざるを得ない部分があるのも事実です。
新規事業に取り組む場合、意思決定や人事制度など、大手企業の既存の仕組みが通用しない場面が多いことはご認識されているかと思いますが、働き方もその一つかと思います。新規事業チームとして、最適な形を模索し、会社に対して「新たなルール」として提案していくような動きが、今後はより必要になるのかもしれません。

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光村圭一郎(こうむら・けいいちろう)

1979年、東京都生まれ。 早稲田大学第一文学部を卒業後、講談社入社。2007年、三井不動産に転職。 ビルディング本部にて開発業務、プロパティマネジメント業務に従事。その後、2012年より新規事業担当。三井不動産初の本格的なインキュベートオフィス立ち上げを主導。2018年には、東京ミッドタウン日比谷に『BASE Q』を開設し、大手企業のオープンイノベーションを支援するプログラムの提供を開始。