【光村コラム】大手企業のビジョンとイノベーションの密接な関係
※本記事は2019年2月15日にBASE Qメールマガジンより配信された内容を転載しております。
会社にはビジョンがあります。
ビジョンとは、会社がなぜこの社会に存在するのか、存在しなければならないのか、
という理由を説明するものだと、私は考えています。
大手企業で新規事業に取り組むにあたって、私はそれぞれの会社のビジョンを意識することが重要だと思っています。
ビジョンとは、その会社が誕生して以来、常に意識されてきたものです。
それゆえに、会社の風土や組織、ルール、求める人材像、商品などに色濃く反映されています。
会社のDNAのようなものと言ってもいいでしょう。
新規事業を考えるとき、よく「飛び地」という言葉が飛び交います。
もちろん、新たな市場やビジネスモデルを開拓することは必要です。
しかし、その会社がどのようなテーマを課題と捉え、どのような解決をイメージしていくかという点については、 ビジョンが大きく影響してきます。
端的に言えば、ビジョンに沿わない新規事業案が評価され、会社から後押しされることは難しいでしょう。
会社が掲げるビジョンは、それがよく考えられていればいるほど、容易には変わらないものだと思います。
逆に言えば一朝一夕で作れるものでもありません。
仮に、ビジョンの変更を迫られている会社があるとしたら、それはそのビジョンの掘り下げ方が 足りなかったと言うべきで、より本質的な問いを重ね、議論する必要があるということです。
一方、ビジョンの「捉え方」は時代や社会環境の変化に応じて変えていく必要があると思います。
ビジョンは一般的に、わかりやすく抽象的な言葉で語られます。
それゆえに、その解釈にはさまざまな想いが入る余地があり、会社が置かれている環境が変わりつつあるとき、 その捉え方にギャップが生じることがあるからです。
このテーマについて、私が勤めている三井不動産を例に書いてみます。
三井不動産のビジョンは何でしょうか。
私は、企業ステートメントである「都市に豊かさと潤いを」という言葉に象徴されていると考えています。
このステートメントは私たちの名刺にも印刷されており、社員であれば1日1回は目にするような言葉です。
この言葉を否定する社員は、おそらく三井不動産には一人もいないでしょう。
しかし、「豊かさ」や「潤い」は、抽象的な単語でもあります。
具体的にはどのような状態が豊かであり、潤っていると言えるのかという点は、時代や個人によって捉え方が変わるのです。
(なお、このステートメントは1990年代に制定されたものですが、
おそらく三井不動産が掲げているビジョンは創業初期から大きく変わっていないと思います)
例えば戦後復興期。
その自体における豊かさや潤いはと、焼け野原から立ち上がり、雨露や寒風をしのげる空間を
手に入れることだったでしょう。高度経済成長時代であれば、
日々の生活を便利にするモノに囲まれる生活に豊かさを感じたと思います。
三井不動産が手がけた国内初の超高層ビルである霞が関ビル(1968年竣工)には、
当時の私たちが考える「豊かさ」と「潤い」が込められていました。
建造物の高さが法律で制限され、その中で必要な面積を最大限に確保するために、建物は敷地目一杯に広がり、 歩道のすぐ横には高さ30メートルの壁がそそり立つという街並みが、東京には広がっていました。
この窮屈な光景を変えたいと願った答えが、建造物を高層化し、その周囲に空地を確保するという霞が関ビルのコンセプトだったのです。
今、建物の周囲に広場が配置されるプロジェクトは当たり前になりました。
そして、現在の私たちは「豊かさ」と「潤い」に対する考えをさらに深め、
東京ミッドタウンなどの複合プロジェクトで表現しています。
今、社会の構造が大きく変化しています。
社会を構成する仕組みや技術、思想など、ありとあらゆるものがアップデートされる時代です。
そうなれば当然、「豊かさ」や「潤い」の捉え方も変わってくるはず。
新規事業を考えるにあたっては、それぞれの企業のビジョンを大切にすると同時に、
その捉え方に変化が必要であるかを、それに対応するビジネスアイディアをイメージする。
これが、三井不動産の新規事業担当者でもある、私なりの考え方です。
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