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【光村コラム】2021年、新年のご挨拶と「郊外移住」論

※本記事は2021年1月1日にBASE Qメールマガジンより配信された内容を転載しております。

皆さん、あけましておめでとうございます。2021年が始まりました。

2020年を振り返ると、言うまでもなくコロナ禍によって特別な1年になったと感じます。昨年だけでも、社会や私たちの生活にはさまざまな変化がありましたが、しかしそれはまだ、これから起こる大きな変化の兆しに過ぎないと思います。

今起きている変化は、単にコロナウイルスのみによってもたらされているのではなく、それ以前から進んでいた劇的な、そして不可逆的な変化の流れに、コロナという要素が加わったものだと思っています。そのうねりが、この数年で一気に形になっていくであろう。そう期待し、そしてその中で自分が少しでも変化の当事者でありたいと、強く願っています。

BASE Qも、2018年のプロジェクト開始から数えて4年目に突入します。 BASE Qにとっての2020年は、飛躍のきっかけを仕込む時期であったと感じています。体制の拡充、コンテンツの拡大、情報発信の強化などを重点的に行い、すでにその効果が出始めていると実感しています。

本来、毎年がそうであるべきとは思いますが、2021年はまさに「勝負の年」。私もこれまで以上に真剣に、本気で取り組んでいきたいと思っています。

2020年、鎌倉に引っ越しました

先ほど申し上げたように、2020年はさまざまな変化が起こったわけですが、その中でも大きな議論を呼んだのが「都心に暮らすことの意義」というテーマであったかと思います。

ここで言う「暮らす」とは、「住まう」ということだけでなく、「働く」「遊ぶ」「学ぶ」「憩う」などの意味を含む講義なものです。「密」を避けるべしという行動変容、リモートワークの普及、その結果明らかになった「都心に通い、集まることのコストやリスク」といった要素は、都心に暮らすことの意義と価値の再考を、私たちに突きつけたと思います。

この議論の答えは、まだ出ていません。都心の生活利便性は捨てがたいと思う人もいるし、郊外でも十分に充足されると考える人もいる。より積極的な理由や目的をもって地方に移住したいと考えている人もいるでしょう。この問いは、これから数年かけて私たちが考えていくものだと思いますし、答えは必ずしも一つには限りません。

私は三井不動産という「街づくり」を主題にした企業に勤めていますし、イノベーションを創出するためのコミュニティの理想像について考えることをライフワークとしていますから、このようなテーマに対して、極めて強い問題意識と当事者意識を持っています。

そんな中、私が2020年に選択した暮らし方が「郊外への移住」でした。今回はこの、ある種の”実験”に対する今時点の見解をお届けしようと思います。

鎌倉に住むメリットとデメリット

以前のメルマガにも書きましたが、私は今、一人暮らしをしています。
鎌倉に引っ越したのは2020年7月のこと。それまでは浅草に住んでいました。

浅草から私のメインの勤務地である東京ミッドタウン日比谷まではドア・トゥ・ドアで約30分。自宅の周囲には飲食店やコンビニ、スーパーも多く、男の一人暮らしには困らない環境と言えました。
対して鎌倉。自宅から日比谷までは1時間半くらいかかります。自宅から最寄りのコンビニまでは徒歩10分。飲食店も少なく、夜早く閉まってしまいます。また、都内で暮らしていれば当たり前にある「Uber Eats」のようなサービスも範囲外になっています。さらに言えば、私が利用しているS社のLTE回線はなんと”圏外”。かなりの「郊外感」だとご理解いただけるのではないでしょうか。

ガラッと変わった生活環境ですが、メリット、デメリットはそれぞれどんなもんか。以下、まとめてみます。まずはメリットから。

1,家賃が安い
これは、当然といえば当然ですが。もちろん鎌倉も人気エリアなので、郊外としては高いほうだとは思いますが、都内に比べれば絶対的に安いです。

2,通勤が辛くない
現在、私の出社は週2~3回といったところ。鎌倉駅から横須賀線に乗り新橋まで1時間。そこから日比谷まで歩くというルートです。以前であれば、通勤時間帯に鎌倉駅から座るのは難しかったと思うのですが、今は座れます。私はグリーン車を使うことも多いですが、それだとゆったり座れますし、パソコンやiPadを出しての仕事も捗る。今後、出社の頻度が多くなると考え方が変わるかもしれませんが、今のところ苦痛とは感じません。

3,自然が日常にある
夏、家から出ると空気がひんやりしています。家の周りが森林だからだと思います。自転車で10分ほど行けば、材木座の海岸。仕事の合間に海を眺めてリラックスなんてことが簡単にできます。車で30~40分も行けば、三浦半島の海岸に出ることもできます。私はアウトドアが好きですので、たまに海沿いに行き、そこに椅子と小さなテーブルを出してコーヒーを淹れるなんて過ごし方をしています。これは、都心にいてはなかなか得られない体験だと思います。

4,食材が美味しい
スーパーや食料品店に行くと、三浦半島や湘南で採れた新鮮な野菜や魚介類が手に入ります。格別安いわけではありませんが、都内に比べて自炊する人の割合も高いのでしょう、目の肥えたお客さんを相手にするため質の高い食材が手に入ります。自炊をするのも楽しくなりました。

5,個性的な飲食店が多くある
自宅からの気軽な徒歩圏というわけにはいきませんが、鎌倉にも個性的な飲食店は多くあり、外食の選択肢には困りません(観光客向けのお店は趣味に合わないところもあり、見極めが必要ですが)。

6,なんだかんだ”都内っぽい”生活もできる
先ほど、Uber Eatsは来ないと書きましたが、アマゾンやヨドバシカメラのECで注文した商品は翌日には届きます。横浜までは30分、都内までも行こうと思えば約1時間という距離なので、必要なモノ/コトを我慢しなければならない、という場面はほとんどありません。

続いてデメリットも。

1,夜が早い
飲食店の閉店が早く、夜は少し寂しいです。少し遅めに外食しようとすると、選択肢がガクンと減ります。

2,道路の渋滞が激しい
観光シーズンや週末の渋滞には閉口します。観光地以外にも、日常的に行くスーパーの出入り口での渋滞など、ちょっとしたところが混雑する印象です。

3,住居の選択肢が乏しい
都内に比べて、物件の絶対的な少なさに加えて、単身者向けの物件がさらに少ないエリアであることから、選択肢が少ないです。また、日本の賃貸住宅の構造的な問題だと思いますが、単身者向けの住宅は家賃が抑えられる一方で、キッチンや水回りの設備が劣り、QOLの低下につながってしまいます。個人的には、自炊の頻度が増えているのでキッチンはもっと広く設備も充実していいですし、お風呂にも足を伸ばして入りたいところ。そのために家賃が上がってもいいのですが、そのような設備を求めると一気にファミリー向けの物件となってしまい、面積的には不要ですし、家賃も跳ね上がります。

4,虫が多い
玄関を出ると蜘蛛が巣を張っていたりします。苦手な人にはキツイと思われます。

5,光熱費がかかる
自宅、プロパンガスなんです。割高です。

当たり前だが、出勤頻度がカギになる

どうでしょう。一部は「鎌倉だから」というものもありますが、郊外生活の一端はお伝えできたのではないかと思います。 で、総合的にどう感じているかと言うと、私は今のところ大満足をしています。都内で暮らすことの良さももちろんありますが、鎌倉での生活も得難いものが確かにある。

ただしこれは、「都内への出勤が週に2~3回であれば」という条件付きです。
11月ごろ、瞬間的には週4~5日出勤する場面もあったのですが、そのときは鎌倉に転居したことを後悔した記憶もあります(笑)。途中からは、GoToトラベルキャンペーンを活用し、出勤が続く日は都内に格安で宿泊するというワザで切り抜けましたが、このような制度が永続するはずもなく、やはり出勤頻度が住む場所の選択に与える影響は大きいということを実感するわけです。

仮に今後、コロナ以前のよう週5日、9時から10時には出社するという光景が戻ってくれば、鎌倉からの通勤環境も大きく変わってくるでしょうし、そうすればここに住み続けるということは難しくなるように思います。しかしそれは、上に挙げたようなメリットを手放すことになるわけで、それは正直受け入れがたいものもある。もっと言えば、通勤のために住む場所を規定されるという「不自由さ」に対して、言いようのない嫌悪感を抱いてしまっている。

会社がこの先、どのような働き方を選択するのかはわかりませんが、その結論次第では、私の人生にももしかすると、大きな影響が出るかもしれません。

働き方の選択肢をどう提示できるか

つまるところ「選択の自由」ということなんだと思っています。

働き方が自由になれば、暮らし方も自由になる。働き方が不自由であれば、暮らし方もどうしても不自由になってしまう。もちろん、なんらかの合理性があって働き方、暮らし方は決まるわけですが、本当に選択肢は一つしかないのか。多様な選択を提示するほうが、むしろ合理的ではないのか。少なくとも、選択肢を複数用意する努力はすべきなんじゃないか。

このような考え方は、今ジワジワと広まっている感覚があります。私の友人知人と話していると、リモートワークに関する会社の議論のあり方(そもそも、まともに議論されず、一部の人の意向のみで決まっている場合もある)や結論に強い違和感を抱き、転職を検討している人が少なくありません。

これは単にリモートワークにまつわる話ではなく、それを起点に会社と従業員の関係性や、会社における組織経営や議論の質に対する強烈な違和感が生じているがゆえの現象だと感じます。

冒頭に書いたように、コロナウイルスは本当に多くの、そして激しい変化をもたらしているわけですが、日本企業の経営に対しても極めて強い揺さぶりをかけていると言えるのかもしれません。

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光村圭一郎(こうむら・けいいちろう)

1979年、東京都生まれ。 早稲田大学第一文学部を卒業後、講談社入社。2007年、三井不動産に転職。 ビルディング本部にて開発業務、プロパティマネジメント業務に従事。その後、2012年より新規事業担当。三井不動産初の本格的なインキュベートオフィス立ち上げを主導。2018年には、東京ミッドタウン日比谷に『BASE Q』を開設し、大手企業のオープンイノベーションを支援するプログラムの提供を開始。