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【光村コラム】大ヒット『三体』を読んで考えた こうすれば「宇宙ビジネス」は身近になる

執筆者:光村 圭一郎(BASE Q運営責任者)

突然ですが『三体』という小説をご存知でしょうか。
中国人作家の劉慈欣氏によるSF小説で、全三部作。先日、第三部の日本語訳が出版されました。

『三体』は中国だけでなく世界中で大きな話題を呼んでおり、日本で第一部が刊行された2019年時点で、総発行部数は2900万部に達しています。第一部だけでも400ページ超、第二部〜三部は各300〜400ページ超の上下巻という大ボリュームの長編としては、異例のヒットと言えます。

壮大な宇宙スペクタクル『三体』

ぜひ皆さんにも読んでいただきたいのでネタバレは極力避けようと思いますが、原稿の都合上、最低限のあらすじを紹介させていただきます。

物語冒頭の舞台は文化大革命期の中国。革命の混乱で家族を失い、人類に絶望した女性のある行動によって、地球文明の存在が「三体世界」という地球外文明によって知られてしまいます。

三体世界が住む惑星は、3つの恒星が不規則な軌道を描くため気候が安定せず、何度も文明が絶滅を繰り返してきたという過酷な環境。平穏な環境に恵まれた地球の存在を知った三体世界は、地球を占領し移住するため、大規模な宇宙艦隊を出発させます。

人類より数段優れた文明を持つ三体世界が地球に侵攻すれば、想像を絶する悲劇に見舞われることになるーー。三体艦隊の到着まで約四百数十年。人類は遠い未来に到着する「共通の敵」を相手にした、壮絶な戦いに巻き込まれるのです。

その後、物語は数百年の時間軸の中で人類社会を襲うさまざまな混乱や変化、人類と三体世界の戦い、次元をまたいだ宇宙規模のスペクタルを展開し、壮大な完結を迎えます。大長編の所々に仕掛けられた伏線が、見事に収束するラストはまさに衝撃的。第三部を読んでいる際は、早く読み進めたいが、これで完結してしまうのが惜しいというジレンマに苦しみました(笑)。

宇宙ビジネスのイベントに登壇して

ここで、話題は唐突に「新規事業」に移ります。
先日、『X-NIHONBASHI conference 公開セッション企画会議』というオンラインイベントに出演しました。これは7月13日に開催される「宇宙イベント」の前哨戦。このイベントは「宇宙ビジネスと地球を結びつける」というテーマで、三井不動産が主催するものです。

私が出演したのは、このイベントの前哨戦。本番イベントでどのようなトークを展開するかを考える“企画会議”を、オンラインで公開で行うという挑戦的なコンテンツでした。
(当日の様子はYoutubeでも公開されています→ https://www.youtube.com/watch?v=G7DqRnjvu5k)

大掛かりな新規事業テーマを考えるときに、よく俎上に上るのが「宇宙」。
たしかに大手企業が求めるビジネスとしての規模は満足させてくれそうだけれども、途方もない投資と時間が必要なので二の足を踏んでしまう。このような認識が一般的ではないでしょうか。

たしかに私も、三井不動産が人工衛星スタートアップのアクセルスペースに出資している実績はあるものの、宇宙を自身の新規事業検討テーマとして考えたことはほとんどなく、縁遠いものと考えていました。

しかし、このオンラインイベントに登壇したことで、私の認識は変わってきました。
例えば「時間軸」。宇宙でのビジネスというと、すぐに実現することは難しく数十年先の話と受け止められがちで、大手企業の目線では「未来の話すぎる」と敬遠されてしまいます。

ところが、他の登壇者のコメントによれば「さすがに1〜2年での事業化は難しいが、5年くらいあれば事業化を検討することも可能」とのこと。実際、宇宙に関するビジネスは近年大きな進歩を果たしており、そのペースを鑑みれば、非現実的な数字ではないそうです。これくらいの時間軸なら、事業検討の俎上に上ることもあり得ます。

また「宇宙ビジネス」といっても、すべてが宇宙空間で展開されるわけではなく、宇宙で活動することで得た知見を地上に持ち帰ったり、地上での活動を将来的な宇宙での生活に応用したりすることも可能。そう考えると、ビジネスという観点で宇宙に関わることの裾野は、思ったよりも広くなってきます。

それ以外にも、昨今盛り上がる「月探査」「月面開発」の意味(要は、火星等、さらに遠い宇宙に行くためのエネルギーや資材獲得の拠点とする)など、さまざまな宇宙ビジネスに関する視点に触れて、大変刺激的なイベント登壇となりました。

宇宙をめぐる「共通の目的」

新規事業という観点で言えば、宇宙は思っていたよりも身近な存在である。
認識を改めた私ですが、しかし一方、それを会社の中で通していくのは、依然として簡単ではなさそうとも思います。こんなとき、会社の多くの人から共感される「ストーリー」を提示することが求められます。

そこで思い出されるのが、冒頭にご紹介した『三体』です。
この小説では、三体世界という共通の敵を“発見”したことで、人類は国家の壁を越えて連帯し、人類の技術開発や宇宙進出は、さまざまな障壁を乗り越えながら飛躍的に発展しました。この筋書きは「共通の目的」を持つことの重要性に説得力を与えてくれています。

宇宙という、大手企業にとっては一見遠く見える領域についても、社会として、会社として取り組むべき共通の目的を見いだせるかが、新規事業のテーマとして宇宙を採用できるかのカギになりそうです。

例えば、宇宙は人類の「サステナビリティ」と一体不可分であるという、というストーリーはどうでしょうか。
サステナビリティは、現在の社会において極めて大きな意味を持つキーワードで、「SDGs」や「ESG」という概念にも直結するものです。企業は、そのすべての活動やビジネスにおいて持続可能であることが求められ、それに真摯に応えようとすることが不可欠な時代になっています。

じつは宇宙ビジネスの根底にあるのも、サステナビリティなのではないかと、私は感じています。宇宙ビジネスのプロの方々と話していると、そこから感じられるのは「人類の生存可能性を高めるために、生存圏を広げる試みをしている」という想い。

つまり、サステナビリティを考える延長線上に、宇宙がある。本気でサステナビリティを考えるのであれば、宇宙に対して背を向けてはいられない。こんな理屈も成り立つのではないかと。
まだ解像度は粗いですが、さらに煮詰めていくことで、大手企業が新規事業として宇宙に関わるストーリーがつくれるのではないかと感じます。

7月13日、宇宙ビジネスイベントが開催されます

最近、『SFプロトタイピング』という本を読みました。
SF、いわゆる「サイエンス・フィクション」的な発想をもとに、実現すべき(実現したい)未来からバックキャストして事業開発を考える、という考え方をまとめた本ですが、この本の内容も上述の考え方に通じるところがありそう。やはり、宇宙は無視できないなと感じますね。

さて、私が登壇した宇宙イベントの「本番」が7月13日に開催されます。
下記のリンクで参加申込みができますので、ご興味がある方はぜひ、ご覧くださいませ。
▼X-NIHONBASHI(クロスニホンバシ)カンファレンス お申し込みは下記URLから
https://www.x-nihonbashi-conference.com/

※本記事は2021年7月9日にBASE Qメールマガジンより配信された内容を転載しております。

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光村圭一郎(こうむら・けいいちろう)

1979年、東京都生まれ。 早稲田大学第一文学部を卒業後、講談社入社。2007年、三井不動産に転職。 ビルディング本部にて開発業務、プロパティマネジメント業務に従事。その後、2012年より新規事業担当。三井不動産初の本格的なインキュベートオフィス立ち上げを主導。2018年には、東京ミッドタウン日比谷に『BASE Q』を開設し、大手企業のオープンイノベーションを支援するプログラムの提供を開始。