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【光村コラム】コロナによって激変する新規事業部門の存在意義

※本記事は2020年5月13日にBASE Qメールマガジンより配信された内容を転載しております。

コロナウイルスによって社会に大きな変化が訪れようとしています。
その変化の波は、日本の大手企業の新規事業活動、イノベーション活動にも、大きな影響を与えるものと考えています。

「未来」が一気に「現実」になった

この数年、日本の大手企業は新規事業活動、イノベーション活動に注力をしてきました。そもそも大手企業の新規事業部門の役割は、大きく分けて3つあります。

1,既存の本業部門では見えない/承認できない未来を洞察すること
2,その未来を実現するために、何をすべきか考えること
3,その考えを形にするために、従来のやり方とは異なる方法で前にすすめること

大手企業の本業部門は、どうしても「今」や「近い将来」に注目せざるを得ません。しかし、それだけでは企業としての長期的な成長は見込めない。特に、技術の発展、それによる社会の大きく、そして急激な変動が予測されている今、既存の本業が陳腐化するリスクから多くの企業が逃れられず、その危機感が新規事業活動の原動力となってきたわけです。

しかし、コロナウイルスによって社会が受けたインパクトは、ある意味で、これまでの新規事業部門が見てきた「未来」を、一気に「現実」に変えてしまいました。

例えば、私が所属している三井不動産の新規事業部門でも、働き方の未来を考え、それを実現するためのさまざまなサービスを検討していました。
コロナ以前は、そこで語られていた多くのアイディアが「仮説の一つ」に過ぎず、社内全体で必ずしも受け入れられていたわけではなかった。懐疑的な見方をする人も、少なからずいたわけです。
しかし今、それらのアイディアの多くはすでに、(不完全な形ではあるけれども)実現したり、すぐにでも実現しそうなものとなったりしている。主に新規事業部門の人たちが見ていた未来が現実になり、既存本業部門を含む多くの人たちに体験されることで、共通の認識となったと言えるのではないでしょうか。

既存本業部門が新規事業に乗り出す

今、大手企業の既存本業は大きな打撃を受けていますが、今後、既存本業部門は以下の3つのアクションを加速させると予測しています。

1,営業強化
2,既存オペレーションのコロナ対応
3,新規事業の創出

1は、とにかく当面の危機を乗り越え、積み上がった在庫をキャッシュに変えるための営業強化です。これは短期的には必要な手当でしょう。
2は、人間が物理的に動く、接触する、対面する、というオペレーションの見直しです。オンライン化、遠隔化、ロボット化などがキーワードになります。従来、「人手不足」や「働き方改革」という文脈で進められていた施策が、一気に加速します。
そして3です。本業の寿命が今回のショックで一気に短くなった中、多くの本業部門が「新たな事業を起こさなければ生き残れない」という危機感を一気に強くしています。
そこに、上述のとおり、未来のイメージが一気に近く、そして確かになったという流れが加わります。本業を立て直し、刷新しつつ、新たな事業展開についても考える、というのが既存本業部門の新たな行動形式になるのではないかと思うのです。

新規事業部門はどう動くべきか

このような動きが現実になったとき、それでは新規事業部門はどのような役割を担うべきなのでしょうか。これも3つの方向性が考えられます。

1,既存本業部門の新規事業活動を支援する
2,既存本業部門が関わらない領域や、さらに未来の展望に基づいて活動する
3,存在意義を失い縮小、または消滅する

既存本業部門がコロナ対応や新規事業の創出に取り組むにしても、そこでは社外のパートナーと連携するオープンイノベーションの発想や、新規事業開発に関するさまざまなナレッジ、ノウハウが必要となります。新規事業部門はこれらの進め方については、既存本業部門より経験がありますし、必要なネットワークを有しています。
これらの蓄積を活かし、新規事業部門と既存本業部門が従来以上に深い関係を築きながら、企業のイノベーションを進めていく可能性は高いと思います。

一方、新規事業部門には元来、既存本業部門が見ることができない未来を洞察する役割があったのだとすれば、このような状況になったとしても、その機能は保持すべきとも考えられます。この場合、いわゆる「アフター/ポストコロナ」と言われる状況変化の、さらに一歩二歩先を見据えた活動が求められるでしょう。
ただし、まだ「アフター/ポストコロナ」でどのような世界が実現するかわからない中、そのさらに先を読むのは困難が伴います。R&Dという要素のうち、「R」の色合いが従来以上に濃くなる組織へと変わっていくかもしれません。
この2つのどちらかの役割を果たせない場合、新規事業部門の存在意義は疑問視され、経費削減の観点より、活動が縮小されることは避けられないと思います。

行動の速さと質が勝負を決める

一つ確かなことがあるとすれば「アフター/ポストコロナ」の視界は、多くの人に共有され、クリアになったということです。

コロナによって社会はどう変わるかという議論がさまざまなところで行われていますが、その内容に大きな差異はありません。つまり「どの方向に進むか」という点では、企業や人によって大きな違いはないということになります。戦略や構想の質で勝負をすることは難しいということです。
となると、その方向性にいかに速く、確かに進むかが、勝負の分かれ目となります。考えるよりも行動すること。そして、その行動の質を高めていく必要があるわけです。
上に書いたように、既存本業部門の人たちが新規事業の創出に取り組むとした場合、不慣れを補うための仕掛けも重要になります。

BASE Qとしては、新規事業部門の新たな役割に対応することと、既存本業部門のチャレンジを支えることの両方を視野に入れ、プログラムの強化に取り組んでいこうと考えています。

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光村圭一郎(こうむら・けいいちろう)

1979年、東京都生まれ。 早稲田大学第一文学部を卒業後、講談社入社。2007年、三井不動産に転職。 ビルディング本部にて開発業務、プロパティマネジメント業務に従事。その後、2012年より新規事業担当。三井不動産初の本格的なインキュベートオフィス立ち上げを主導。2018年には、東京ミッドタウン日比谷に『BASE Q』を開設し、大手企業のオープンイノベーションを支援するプログラムの提供を開始。