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【光村コラム】「初めての新規事業」で痛感した「自分主語」で語ることの大切さ

※本記事は2021年5月28日にBASE Qメールマガジンより配信された内容を転載しております。

皆さん、こんにちは。BASE Qの光村です。
2021年度を迎え、ふと思い返してみると、私が三井不動産で新規事業を担当するようになってから、なんと8年もの時間が経過しておりました。

この8年間、さまざまな失敗と学びを積み重ね、今は大手企業の新規事業をサポートするBASE Qの運営責任者になっています。「サポートする」とは言っても、私自身が「新規事業の教科書」になったわけではありません。
今でも失敗はするし、学習途上。それでも、これまで身につけてきたさまざまなナレッジを活かし、大手企業の新規事業担当者や事務局の方とともに、最適解を探すために悩みながら全力で伴走していく所存です。

さて、この4月から新たに新規事業担当になった方も多いかと思います。そんな方々にぜひお伝えしたいのが「『自分』を主語に語ること」の重要性です。今回は、私自身の過去のエピソードを通じてお話ししたいと思います。

入口は“やらされ感”

私が新規事業を担当することになったのは2013年のことです。
きっかけは、当時社内で開催された新規事業コンテスト。ここに応募した案が採択されたのです。

今思うと、このコンテスト自体、ツッコミどころがたくさんありました。
当時は、リーマンショックや東日本大震災を受けて、オフィスビル市況は低迷していた時代。加えて、多くの人がデジタル技術の進化を身をもって体感できるフェーズに入りつつあったこともあり、右肩上がりの成長は持続できないという強い危機感が社内にはありました。
その危機感を踏まえてこのコンテストが企画されたわけですが、この取り組みを通じ、どのような事業を生み出したいのか、どんな成果を得たいのかは、ほとんどイメージされていませんでした。

また、事務局を含め、社内にほとんど新規事業経験者がいない状態。にもかかわらず、いわゆる研修のようなものは行われず、社外のアドバイザーも入れていなかった。案の採択も、既存本業と似たようなもの(要は「社内序列に基づき偉い人が決める」)。

さらに、最大の“問題“は、このコンテストに応募することは「義務」だったということです。ですので、やる気があろうがなかろうが、とりあえず全員が出す、出さねばならぬ、というものでした。当時の空気をフェアに思い出してみると、義務とは言いながらも多くの社員が「面白がって」提案してように思いますが、強い内発的動機に基づくものではなかったというのも事実です。

一般に、新規事業で重要とされるのが、担当者の熱意と覚悟です。「新規事業がなぜ成功するのか?」「成功するまで諦めず、やり切るから」という冗談のような話も一面の真理があるわけですが、とまれ、”やらされ感””レールに乗せられてる感”で始まったコンテストはその後、苦戦することになります。

結果からいうと、十数案が採択されたものの、事業化に至ったのはせいぜい一つか二つ。ほとんどが、検討も進まないままお蔵入りになってしまいました。

その背景には、「思いつきで提案したので、少し検討してみると無理筋だとわかった」「やってみようかと思ったけど、思いの外本業が忙しく手が回らなかった」など、“新規事業あるある”とも言える理由が並ぶのですが、これもコンテストの制度設計や経緯を考えれば仕方がない話ではあります。

さて、もう一つネタバレするとすれば、私はこのコンテストを通じて事業化に至った案を担当していました。しかし、その入口を振り返ってみれば、その他多くの提案者と変わらず、熱意も覚悟もないけど採択されちゃった、という極めて受け身の状態であったのも事実なのです。

何も答えられない自分

プロジェクトが採択され、検討が動き始めます。
私が提案したのは、日本橋にコワーキングスペースをつくりたいというもの。それも、単に働く場所というだけでなく、大手企業のビジネスパーソンやスタートアップ、クリエイターなどが集い、交わる空間をつくりたいというものでした。今でいうオープンイノベーションの走りのような施設ですね。

似たような提案をしていた社内メンバーでチームを組み、便宜上、私がリーダーになったものの、自分には新規事業経験も知識もない。なので、どう進めたらいいのかわからない。
そこで、チームメンバーがこれまでに付き合いがあった社外メンバーも交えて、ブレストをしてみようということになりました。

彼らは、新規事業やコミュニティづくりのプロでした。
ここで社外メンバーを入れたこと、そのとき集まってくれた人たちと仕事をしたことが、私にとって大きなターニングポイントになりました。

ブレストが始まってすぐ、私はすぐに指摘されます。
「このプロジェクトは、何を目指すんですか?光村さんはなぜ、このプロジェクトをやりたいんですか?」

この問いに対して私は、コンセプトの意義や市場動向の予測などで答えました。しかし、即座に一刀両断されます。
「いや、そういうことを聞いているんじゃないんです。なぜ、光村さんという人間が、このプロジェクトをやりたいのか、やらねばならないと思っているのか。それを聞きたいんです」

こう聞かれて、自分には返す言葉がありませんでした。
自分の中に答えがないわけではない。しかし、それはまだクリアな言葉にできているわけでもない。もっと正直に告白すれば、そんなものが語れなくても、筋のいいアイディアを有望な市場に投入すれば成功するだろう、そういう見込みがあると思ったから会社も採択したんだろう、それで十分じゃないか、という想いもありました。

そんな私に対して社外メンバーは言います。
「僕らは、それが語れない人とは仕事できません」と。

一瞬、ムッとしましたが、それは困ると思い直します。なにしろ、自分には経験も知識もななく、ほかに頼れる人も思いつかない。
彼らが納得する「私なりにこの事業をやる理由」を語れるようにならないと、プロジェクトは頓挫してしまいます。それは、サラリーマンの習性としてヤバいし、悔しい。

数ヵ月におよぶ壁打ち

結局、その後彼らとは数ヵ月におよぶ壁打ちを繰り返しました。いろいろな人の話を聞きながら、それを自分の中で咀嚼し、言葉にして彼らにぶつける。それに対して、また異なる観点から疑問を呈され、また考える。この繰り返しです。

今思えば、社外メンバーもよく付き合ってくれたものです。何しろ最初は予算化もされていなかったから報酬も払えなかったし、業務時間内に動けかなったので朝7時半に日本橋に集合して打ち合わせ、なんてこともしていました。
根気強く付き合ってくれたメンバーには、本当に感謝しています。

ただこの議論、最初は苦しくもありました。
何しろ、容易なことでは納得してくれないんです。
突き詰めて考えたことがあっさり否定される、ひっくり返されるなんてこともザラにありました。 そこで、さらに考え、なんとか乗り越えようとする。

幸い、考えるのは好きでした。苦しいけど、好きなことをやっている。そして、やっているうちにだんだん、本質に近づいている実感が得られる。そうすると、面白くなってくる。時間を忘れて没入するようになってくる。
誤解を恐れずに言えば、初めて仕事の面白さを味わったと言えるのかもしれません。

議論が始まったのが、2013年の5月ごろ。そうですね、秋ぐらいになってようやく、このプロジェクトにリーダーとして携わる自分の言葉がつくれたでしょうか。その後、年末に社内で事業化と予算の承認を受け、2014年2月、日本橋に「Clipニホンバシ」が開業しました。

「自分主語」で語れなければ仲間はできない

このプロセスは、今の自分にとって決定的に大きく、不可欠なものです。
一番大きく変わったのは「主語」です。それまでは「三井不動産は〜」「うちの部署は〜」という主語で語ることが多かったのに対して「俺はこう思う」「自分はこうしたい」と話せるようになった。話すだけでなく、思考レベルにおいても「自分が主語」が徹底されたように思います。

これは、新規事業に携わる中で、非常に重要なポイントです。
新規事業で大切な要素はいろいろとありますが、やはり「いい仲間」に恵まれることは大事。そしてその仲間を集め惹きつけるのは、「自分を主語」で語る人の「これだけは絶対にやりたい」という熱意に尽きます。

大手企業で新規事業に携わろうという人には、この「自分主語」で考え、語ることの重要性と難しさを理解できていない方が多いように思います。
そのマインド変容をなしに、いくら知識を詰め込んでも、人脈をつくろうと思っても、成果にはつながりにくいというのが正直なところでしょう。

「自分主語」で語れるようになるには、どうすればいいのか。

私のように、実際の事業を担い、そこにおいて本質的な問いと思考を積み重ねる方法は有効です。その際は、BASE Qの伴走チームのような専門家を壁打ち相手に置いたほうが捗りやすいです(笑)。

また、BASE Qでは、イントレプレナーのマインドへの働きかけもテーマに含む「Qスクール」や、マインド覚醒に特化したプログラムも用意しております。ご興味がある方は、ぜひお問い合わせください。

最後は、極めて営業色が強いオチとなりましたが(笑)、皆さんの参考になればと思います。

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光村圭一郎(こうむら・けいいちろう)

1979年、東京都生まれ。 早稲田大学第一文学部を卒業後、講談社入社。2007年、三井不動産に転職。 ビルディング本部にて開発業務、プロパティマネジメント業務に従事。その後、2012年より新規事業担当。三井不動産初の本格的なインキュベートオフィス立ち上げを主導。2018年には、東京ミッドタウン日比谷に『BASE Q』を開設し、大手企業のオープンイノベーションを支援するプログラムの提供を開始。