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【光村コラム】『3000人アンケートから斬る「大企業イノベーション」の最前線』後編

※本記事は2019年11月1日にBASE Qで開催されたアンケート報告イベントでのトークセッションをもとに加筆修正を行ったものです。
記事の前編はこちらからご覧ください。

BASE Qの光村です。こんにちは。
前編に引き続き、大手企業によるオープンイノベーションの実態に切り込んでいきたいと思います。
前編では主に、各企業の戦略レイヤーについてまとめてきましたが、ここから先は各企業がどのような活動を行っているのかを見ていきたいと思います。

今、どんな施策が取り組まれているのか

ここから先は、各企業がどのような活動を行っているかを見ていきます。

Q5:あなたの所属企業でオープンイノベーションを推進する上で、連携先として重視している相手は誰ですか?重視している相手を上位3つまで選んでください。
Q6:Q5で選択した回答のうち、もっとも重視している相手は誰ですか?

オープンイノベーションで連携する相手先として、日本国内のベンチャー企業や大手企業を重視する姿勢が顕著に表れています。一方、海外企業との連携に対しては及び腰な姿勢も浮き彫りになっています。言葉の壁や商習慣の違いなどを考えれば、海外勢と連携することの難しさはたしかにありますが、本当に最適なパートナーを探すという観点からすれば、もっと海外にも目を向けていく必要があると感じます。

Q7:あなたの所属企業ではオープンイノベーションを推進するために、どのような活動を実施していますか?現在実施している活動を教えてください。(複数回答可)

近年、大手企業によるベンチャー企業への出資活動がさかんに報じられるようになり、実際に出資活動を行っている企業は多いですが、それに限らずかなり幅広い活動が行われていることがわかります。また、「その他」の回答としては下記のようなものが挙げられていました。

・「社内ビジネスコンテスト」等、社内にアイディアを求める活動
・「お客様との新規ビジネス検討ワークショップ」等、顧客というリソースを活用した機会探索
・中途社員の積極採用や社員のベンチャー留学等、人材強化に重きを置いた施策

中でも最近の社内ビジネスコンテストは、社外のメンバーとの共同提案を認めたり、当初からベンチャー企業と連携することを前提とする提案を受け入れたり、オープンイノベーションの要素を取り入れた制度設計を行うのがトレンドになっています。

それではこれらの活動の中で、効果の有無はどのように評価されているのでしょうか。

Q8:Q7で選択した回答のうち、有効な取り組みであると感じられた活動はどれですか?また、効果が薄いと感じられた活動はどれですか?(複数回答可)

最も効果があると実感されているのは「企業本体からの出資」で、30%を超える人が「有効である」と回答しています。なお、この回答は必ずしもベンチャー企業への出資を前提にしているわけではなく、それ以外の企業やプロジェクト等に対する出資も含まれていることに注意してください。
一方、効果が薄いと指摘されている活動には「コンサルタントの活用」「大規模カンファレンスへの参加」「社員教育プログラムや研究の実施」が挙げられました。

それぞれの施策について、当然効果があると考えている人もいれば、そうではないと評価している人もいます。そこで、効果があるという回答と効果が薄いという回答の差分を見てみたいと思います。

やはりここでも、効果が認められているのは「企業本体からの出資」となりました。それ以外に評価が高かったのは「自社アクセラレーションプログラムの実施」「ベンチャー企業とのミートアップイベントの開催」「オープンイノベーション拠点の運営」が上位に入っています。それぞれの企業がオープンイノベーションの相手先として主にどのターゲットを見ているかというのは、この後の質問で聞いていますが、ベンチャー企業を対象にした施策に評価が集まっていると考えていいでしょう。
一方、マイナス評価のほうが大きかった回答としては「大規模カンファレンスへの参加」「コンサルタントの活用」「マッチングサービスの利用」が挙げられています。
これらの施策がおしなべてダメということではないとは思いますが、活用の仕方や成果を挙げる方法を見出だせていないという実態が見えてきます。

成果が出ている企業は、どんな施策を行っているのか

それぞれの企業の活動は、果たして成果に結びついているのかどうか。率直に聞いてみました。

Q9: あなたの所属企業では、オープンイノベーションは成果を挙げていますか?

「期待以上の成果」が3%、「期待どおりの成果」が13%であるのに対し、「期待ほどではないが成果が出ている」という回答が51%を占めました。
「なんらかの成果を得ている」という回答が67%あると考えるのか、逆に「期待に達していない」という回答が76%に及ぶと考えるのか。評価は難しいところですが、現在の日本企業の置かれている厳しい環境を考えれば、やはりもう一歩も二歩も踏み込んだ取り組みが必要であるように思います。

続いて、成果が出ていると答えた方、出ていないと答えた方、それぞれに要因を挙げてもらいました。

Q10: Q9で「期待以上の成果を挙げている」「期待どおりの成果を挙げている」「期待ほどではないが成果は挙がっている」と回答した方にお聞きします。その要因はなんですか?重視することを上位3つまで選んでください。)

Q11: Q9で「成果は挙がっていない」と回答した方にお聞きします。その要因はなんですか?重視することを上位3つまで選んでください。

成果が挙がっていると回答した方は「会社のリソースが活用できている」「経営層の理解が深く、コミットを獲得できている」「適切な施策を選択し、運用できている」という要因を挙げています。
一方、成果が挙がっていないという方は「適切な施策が選択できていない」「既存本業とは異なる意思決定フローが確立できていない」「十分な人数が関与していない」「経営層の理解が浅く、コミットを獲得できていない」という要因を挙げています。
どちらの立場でも「適切な施策」と「経営層のコミット」という要因が指摘されていることは注目に値します。また、成果が挙がっている要因の最上位に選ばれている「会社のリソース活用」も、オープンイノベーションを全社的な取り組みにするための風土づくりや仕組みづくりが功を奏した結果と考えられ、やはりそこには経営層のコミットと適切な施策の運用が寄与しているように思います。
成果が挙がっていない要因として指摘されている「既存本業とは異なる意思決定フロー」「十分な人数の関与」も、本来であれば経営層レイヤーで整理すべき事柄であることを考えれば、経営層の理解と関与度を深めることには重大な意味があると言えるでしょう。

ところで、Q9の質問で「期待以上の成果」「期待どおりの成果」という回答をした方は、どのような施策を行い、どのような要因を挙げているでしょうか。“オープンイノベーションの優等生”といえる皆さんの回答に絞って、それぞれ見てみましょう。

経営層のコミットや適切な施策などが選ばれているという点では、全体集計とさほど変わりがありませんが、実施施策で「社員教育プログラムや研修の実施」が、また要因として「質の高い人材を確保できている」が、それぞれ上位に入っていることに注目したいです。オープンイノベーションの担い手となる人材をしっかりと育て、その人たちが活躍することで成果が挙がるという関係性は強く意識すべきでしょう。

上司と部下で食い違う見解

冒頭で触れたように、今回のアンケートでは回答者の職位も聞いています。「成果が出ていない」という回答をした方が挙げる要因を、職位別に分析してみたところ、面白い傾向がありました。
下の図は、部門長以上とそれ未満の方に、それぞれ「成果が出ていない」要因を聞いたものです。

部門長以上の方々の回答を見ると「質の高い人材を確保できていない」「十分な人数が関与していない」といった回答が上位に並びます。人材にまつわる要因を重視しているように思います。一方、部門長未満の方々の回答を見ると、上位には「既存本業と異なる意思決定フローが確立できていない」「適切な施策が選択できていない」といった組織や制度に関わる要因が浮上してきます。
端的に言えば、部下の方々は経営層や部門長クラスによるマネジメントに問題があると考え、部門長クラスの方々は部下の人材の質に課題が大きいと考えている。ここには大きな意識ギャップがあるように思います。このギャップを乗り越え、社内で建設的な議論が戦われるようにならなければ、成果につなげていくことは難しいように思います。

より良い活動につなげていくために

ここまでの内容を見ると、やはりまだまだ大手企業のオープンイノベーションには課題が多いと感じざるを得ません。これらの活動をより良いものにするためには、どうすればいいでしょうか。組織と個人の両面で聞いてみました。

Q12:今後、あなたの所属企業におけるオープンイノベーション活動をよりよいものにしていくために、もっとも重要なことはなんですか?

Q13:今後、あなた自身がオープンイノベーション活動によりよく取り組むために、もっとも重要なことはなんですか?

組織の改善項目としては「イノベーションに適した組織への改変」「プレイヤー層の育成」「経営層の理解進化とコミット獲得」が上位となりました。
これまで見てきた内容とも重なりますが、やはり大手企業の課題として、既存本業とは異なる組織や制度をどう打ち立てられるかという観点が重要視されています。そして、それを実現するための経営層のコミットが大切あること。また、そこで力を発揮するプレイヤー人材の不足が指摘されていますし、そのような人材が育つためにも、組織や制度をどう変えていけるかという課題につながっていくのだと思います。

一方、個人レベルとしては「事業推進力」「未来のビジョンを生み出す力」「事業アイディア創造力」が票を集めました。事前の予想では「社内巻き込み力」がもっと上位に入るのかと思いましたが、そこにはあまり課題を感じていないようです。
これは、大手企業のサラリーマンであれば、社内巻き込みや調整はある程度できる自信があるという表れかと思います。反面、既存本業で仕事をしているだけではなかなか伸びない「事業をつくる力」の不足が意識されている結果かと考えられます。

それでは最後の設問です。

Q14:あなたは今後も、オープンイノベーション活動に関与していきたいと思いますか?

67%もの方が「積極的に関与したい」と回答しています。
この高い意識がよりよい活動につながり、高い成果を生み出すことを期待したいです。BASE Qとしても、微力ながら貢献していきたいと思っていますので、今後ともよろしくお願いいたします。

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