BASE Q

『3000人アンケートから斬る「大企業イノベーション」の最前線』前編

※本記事は2019年11月1日にBASE Qで開催されたアンケート報告イベントでのトークセッションをもとに加筆修正を行ったものです。

皆さん、こんにちは。BASE Qの光村です。

BASE Qは、日本の大手企業のイノベーション実践や新規事業の創出、企業内でイノベーションの担い手のなるイントレプレナーの輩出を目指し、日々活動しています。

昨今、日本の大手企業のイノベーション活動は非常に活発になっていますが、しかし一方、どの企業も苦戦しているという声が一般的です。今、大手企業のイノベーションの最前線はどうなっているのか。これを調査するため、BASE Qでは2019年7〜9月にかけて、大規模なアンケート調査を行いました。

アンケート調査概要
件名:大手企業×オープンイノベーションに関する意識調査
実施時期:2019年7月17日〜9月30日
実施方法:Microsoft Formsを通じたオンライン調査

なお、アンケートの件名で「オープンイノベーションに関する意識調査」としているのは、現在の大手企業のイノベーション活動において、社外と連携するオープンイノベーションは必須になっているという考えに基づくものです。ただし、世間的にはやや誤解されつつあるように、必ずしもスタートアップとの連携を前提にしたものではないことを、予めお断りしておきます。

2859名の回答が示す大手企業のリアル

それでは早速、内容を見ていきたいと思います。
はじめにお断りしておきますが、今回のアンケートはあくまで個人を対象にしたもので、企業向けではありません。オープンイノベーションに関わる人たちが今、どのような考えや思いを持っているかということを浮き彫りにすることを主目的として設定したからです。したがって、会社単位の施策等について聞いた場合は、回答者のポジションや情報量によって回答の精度に違いが出てくる場合もありますが、予めご了承ください。

まず、今回のアンケート調査ですが、回答総数は2859名。その方々が所属されている企業数は311社に上りました。オープンイノベーションに関する調査で、回答サンプル数がこれだけ集まるものは珍しいのではないかと思います。調査にご協力いただいた皆様、ありがとうございました。

回答者の属性をもう少し詳しく見てみます。

業種については、「IT/通信/インターネット」が46%で最多。「メーカー」「不動産・建設」「環境/エネルギー」「商社」と続く結果になりました。イメージとしては金融、サービス関連の回答者が少ないように思います。この点は、回答の偏りを考える上で考慮する必要があるかもしれません。
また、それぞれの企業の連結売上規模も聞いています。こちらは「1兆円以上」が55%を占め、大手企業を対象にした調査としては適当な回答になっていると思います。

回答者が、それぞれの企業でどのような部門に所属しているかも聞いてみました。

こちらは「既存本業における既存事業部門」が21%でトップ、「新規事業部門」が18%で続きました。
オープンイノベーションに関する調査で既存本業における既存事業部門の回答者が多いということに違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれませんが、これはむしろオープンイノベーションだからこそ、このような結果になったと考えられます。
つまり、オープンイノベーションでは大手企業では既存本業の持つリソースをどのように活用するかという点が重要であり、それらのリソースを持つ既存本業の既存事業部門の存在感が色濃くなってきているからです。
回答者の役職についても聞きましたが、こちらは各階層がバランスよく分布したように思います。

「既存本業」の延長でオープンイノベーションに取り組む大手企業

さて、いよいよ本題に入っていきます。まずはそれぞれの企業の目的や目標設定、すなわち戦略レイヤーについて見てみます。

Q1:あなたの所属企業でオープンイノベーションに取り組む目的はなんですか?重視することを上位3つまで選んでください。また、そのうちで最も重視するものを1つ挙げてください。

もっとも多かったのは「既存本業周辺での新規事業創出」という回答でした。大手企業はすでに強い既存本業を持っているわけですが、そのリソースを活用し、ある程度関連性があるような周辺領域での新規事業創出を狙っているようです。
次に多かった回答が「未知の新規事業創出」。大手企業がオープンイノベーションに取り組むモチベーションの一つとして、外部環境の激変により既存本業がディスラプトされるという危機感がありますが、その危機感の表れとして未知の領域に挑むというのも当然の方向性だと思います。

ここまでは複数選択可という中での話でしたが、その中でももっとも重視する目的はなにか、という質問もしています。この質問に対して、実に42%の方が「既存本業周辺での新規事業創出」を選択し、「未知の新規事業」(22%)を圧倒しました。

この回答には、今の日本の大手企業のオープンイノベーションを取り巻く実態の一端が表れているように思います。つまり、未知の新規事業に大胆に打って出るというよりは、自社の強みが活きやすい既存本業の周辺から手をつけていこうという発想が強いのでしょう。

この傾向は、回答者の所属部門を「新規事業部門」に限った場合も感じられます。

この場合、最も重視する目的は「未知の新規事業」が40%でトップとなりましたが、「既存本業周辺の新規事業」という回答も、39%と僅差だったのです。
既存本業を担う組織とは別に新規事業部門を設立する場合、自社がこれまで取り組んで来なかった領域にこそ取り組んでほしいという位置づけになっている会社がある一方、それでも既存本業領域の掘り起こしを担わせている会社もある形です。

もちろん、それぞれの会社が置かれている状況や思惑は異なるので、どれが正しい、間違っていると言うことはできません。大手企業のような合理的な組織で、本当に未知の新規事業に取り組むことが正しいのか、という議論もあると思います。

Q2: あなたの所属企業では、オープンイノベーションによってどのような規模の成果を実現しようとしていますか?

最も多かった回答は「既存本業と並ぶ規模」。続いて「既存本業を補完する規模」、「既存本業を上回る新たな本業を作る規模」と並びます。
大手企業で新規事業を語るとき、よく「少なくとも100億円はないと意味がない」というような声を聞きますが、「既存本業と並ぶ規模」「既存本業を上回る規模」という回答を合わせると51%となり、感覚値としては近い形になったのではないかと思います。

一方、この質問で問題に感じるのが「特に決まっていない/わからない」という回答が15%もあることです。自分たちがどのようなゴールを目指して活動しているのかわからない、と言い換えてもいいような回答です。じつは、このあとの質問においても、このような大手企業の「戦略不在」とも言える回答の傾向が続き、大きな課題を感じます。

Q3: Q2で回答された成果を、どのような時間軸で実現しようとしていますか?

各企業が掲げている目標を、どれくらいの時間軸で達成したいか。
この質問に対しては約半数、44%の人が「1〜3年」と回答しました。しかし、この回答にも違和感を抱きます。これまでの回答からは、大手企業の既存の本業と並ぶ規模、もしくはそれを上回るような規模の事業を生み出したいと考えていたはずです。それを1〜3年という時間軸で達成するのは現実的と言えるのでしょうか。

この質問に関しては、もう少し込み入った分析をしていますのでご紹介します。どのような規模の成果を達成したいかという質問に対する回答別に、時間軸の回答を重ねてみました。

ご覧いただくように、達成すべき成果でどの回答を選んだ方も「1〜3年」という回答がもっとも多くなっています。もちろん、すでに数年間の取り組みがあり、それをベースに「あと1〜3年」で成果を達成するという意味も込められているのかもしれません。しかしそれを割り引いても、ここで回答された「1〜3年」という数字に、あまり意味があるようには感じられないというのが率直なところです。

また、時間軸についても「特に決まっていない/わからない」という回答が15%もありました。また、達成すべき成果が「特に決まっていない/わからない」と回答した人の約半数、46%は、時間軸でも「特に決まっていない/わからない」と答えており、闇の深さを感じます。

Q4: あなたの所属企業で、オープンイノベーション活動にかけられる予算は年間どれくらいですか?(関係する社員の人件費を除く、事業開発、研究開発、出資、業務委託等に使える予算)

各企業の活動予算についても聞きました。
この質問は、1年間でオープンイノベーション活動にどれくらいの予算を割けるかを聞いたものですが、50億円以上、100億円以上という企業がある一方で、5000万円未満という回答も22%を占めました。あまりに乏しい予算では活動に四苦八苦することは目に見えています。近年、大手企業におけるオープンイノベーションが定着してきたと言われますが、このような実態があることは留意しておくべきかと思います。

この質問でも、達成すべき規模との関連性を見てみました。

じつは、これはきれいな相関関係が見えています。端的にいうと、求める事業規模が大きいほど大きな予算を確保できており、小さな目標を掲げる会社は予算も少ない、という図式です。これはとても合理的な結果に見えますが、一方で「既存本業を上回る規模」を求める企業でも、年間予算が5000万円未満という回答が16%もありました。さすがにこの予算規模で、大手企業の既存本業を上回る事業を立ち上げるには無理があると感じます。

また、達成すべき事業規模で「特に決まっていない/わからない」と回答した場合は、おしなべて活動予算も小さな金額しか確保できていないこともわかります。

「戦略不在」と「短期視点」という病

ここまで、大手企業がオープンイノベーション活動に取り組むにあたっての目的、目標、活動予算などについて見てきました。これらの回答から見えてくるのは、大手企業の「戦略不在」と「短期視点」という2つの”病“です。
目的や目標に対して、明らかに整合しないと思われる時間軸や予算しか与えられていないという状況は、まさに戦略が欠けていると指摘されても仕方がないでしょう。ましてや、目標も時間軸も予算も特に決まっていないようであれば、しばしば揶揄される「大手企業のオープンイノベーションは“ごっこ”」という批判も当然と頷けます。

また、「せいぜい3年」という短期視点にも大きな課題があります。ただ、この回答の解釈には注意を要する点があるのではないかと私は考えています。「1〜3年」と回答した人の中で、本当にその期間で成果を出すことを考えている人は、さほどいないのではないかと思うからです。
これは推測になりますが、大手企業の中で、明確な時間軸を持ってオープンイノベーション活動を行っているところは、ほとんどないのではないでしょうか。Q3でどのように答えたとしても、それはイメージに過ぎないのではないかと思うのです。
にもかかわらず、多くの人が「1〜3年」という回答を選んだのはなぜか。私は、おそらくこの背景に大手企業の人事制度が絡んでいると見ています。多くの大手企業は、オープンイノベーション活動に従事する担当者であっても、通常の人事異動のルーティンから外していないのが実態です。そして、その周期は概ね3年程度という会社が多いのではないでしょうか。
つまり、担当者が自分の任期中になんらかの成果を出そうとするならば「1〜3年」という回答を選ぶほかない。そんな思考が見え隠れするのです。そしてこれは、転じてオープンイノベーションに適した制度設計が、大手企業の中で進んでいない状況も浮き彫りにしているように思います。

後編に続く)

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