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【光村コラム】プロ野球OBのYouTubeに見る「生存者バイアス」の危うさ

※本記事は2022年7月28日にBASE Qメールマガジンより配信された内容を転載しております。

こんにちは。BASE Qの光村です。

私、プロ野球が好きなんです。
特に西武ライオンズのファンでして、DAZNを契約し、見逃し配信も交えてほぼ全試合を観戦しています。

プロ野球OBのチャンネルが大盛況

YouTubeでもプロ野球は強いコンテンツになっており、今季目立った話題でいうと「きつねダンス」。
日本ハムファイターズのチアリーディングチームが試合の合間に踊るもので、YouTubeチャンネル「パ・リーグTV」が火付け役となり、プロ野球ファンを越えて人気になっています。
(ご覧になったことがない方は、ぜひYouTubeで検索してみてください。ただ、謎の中毒性があるのでお気をつけください)

YouTubeにはプロ野球OBが運営するチャンネルも多くあります。
元・大洋ホエールズの高木豊氏が先駆けになったと記憶していますが、ざっと見渡すだけでも古田敦也氏、里崎智也氏、江川卓氏、落合博満氏、上原浩治氏、清原和博氏など、錚々たるビッグネームが名を連ね、数十万単位の登録者を集めています。

これらのチャンネルでは、主なコンテンツとして試合の解説や技術論などが展開されているのですが、かつての名選手や関係者を招いたゲストトークも人気を集めています。
スター選手の素顔や熱い戦いの裏側、ファンからは見えないプロ野球選手の日常などが聞けるとあって、私もよく視聴しています。

「シゴキ」を正当化してないか?

そんなプロ野球OBのYouTubeチャンネルですが、見ていて気になるところもあります。

それはゲストのトークで、特に高校や大学時代の話になると頻繁に登場する「キツい練習」「厳しい生活」エピソードです。
ここで詳細を引用することはしませんが、少なくとも野球部や体育会系の部活動に関わってこなかった自分としては、「炎天下に水も飲まずに練習させられた」「夜通し正座をさせられた」「ボコボコに殴られた」というような話を聞くと、ドン引きしてしまうというのが正直なところ。

違和感を覚えざるを得ないのは、これらの話をしているOBたちが、それを懐かしむように「笑える話」という体で話していること。そして、「辛かったけど、そういう日々が今の自分をつくってくれた」「やっぱりある程度は必要だと思う」と肯定的に語っていることです。
そして、そのような話をする彼らが、方や子供世代における野球人口の減少を嘆いていることです。

まあ、彼らのエピソードの大半は「本当の昭和」で行われていたことであり、現代の野球指導の場は変わっているのかもしれません。
また、究極的にはこのような指導をどう評価するかは本人次第ですし、プロ野球選手になるくらいのレベルで取り組もうと思えば、常人には理解できないような鍛錬が必要なのかもしれません。

しかし、子を持つ親として、このような話をポジティブに語る人がいる世界に、子供を関わらせたいとは思いにくいというのも自然な、現代的な感覚かと思います。
また「厳しい指導」についても、それが本当に役に立つことなのか、効果があるのかはもっと科学的に分析、解明されて然るべきだろうと思います。

OBたちの受け止め方は典型的な「生存者バイアス」であって、それだけで正当化されることもない。
少なくとも、このような指導が合わずに潰れていった人、そもそもそれを嫌ってこの世界に入ってこなかった人もいるのではないかと考えたくなります。

野球とサッカーの違い

このような話を私のFacebookに書いたところ、いくつか面白い視点のコメントがつきましたので、要約してご紹介したいと思います。

・少年野球の指導者は他のスポーツに比べて年齢層が高く、教え方がアップデートされていない印象を受ける。
 炎天下に円陣を組み、長々と説教をしている姿は、まさに「昭和の生き残り」を見る思い。
・マイナースポーツの世界では、メジャースポーツであるかつての野球の指導術に憧れ、無批判に取り入れてしまう
 部分がある。 世間の目に晒されない分、よりひどい指導が行われているケースもある。
・サッカーは、学校の部活動というルートと、クラブチームでの活動というルートがあり、
 少なくとも後者には「シゴキ」の文化は希薄。両者が相対化されるサッカーのほうがアップデートされやすい。
・生存者バイアスで生き残った人が「俺のやり方」を押し付けるというのは会社も同じ。

面白いと思ったのは、同じくメジャースポーツであるサッカーとの対比ですね。
たしかにサッカーにはJリーグのクラブチームという「もう一つのルート」があり、そこでは学校の部活動とは異なるカルチャーが成立しています。
それは、甲子園が唯一無二の目標として設定され、学校の部活動以外の選択肢に乏しい野球とは大きく異なる。
そして、クラブチームの有効性が証明されることで、学校の部活動にも影響を与え、サッカー界全体としての印象は野球とはだいぶ違ったものになっているように思います。

また「生存者バイアスで語られるのは結局のところ仕事も同じ」というのも、なかなか身につまされるご意見。
共通するのは「科学の不在」というところでしょうか。

生存者バイアスを乗り越えるための科学

私は別に、プロ野球OBたちの意見を否定したいわけではありません。
本物のアスリートを育てるためには、このようなやり方が最適なのであるというのであれば、むしろもっと知りたいくらいです。

一方、このやり方が万人受けするものとも思えない。
つまり「どんな人に対してどのような条件で、どのような目標を達成するためには、このようなやり方が有効なのである」という解像度を上げることにも気を配ってほしいし、その上で語ってほしい。
そうしなければ子供の野球人口が増えることはないだろうし、それは結局のところ、プロ野球のレベルが上がらないことにもつながってくる。
これは、プロ野球ファンとして望むところではないのです。

もう一点。
今回、私がこのような論点をFacebookに投稿したことで、自分では気づかなかったような視点や情報が友人からのコメントとして寄せられました。
私はこのコラムで以前から、イントレプレナーにとっての社外ネットワークの重要性を訴え、そのためにもSNSを活用してほしいと伝えてきましたが、要はこういうことです。
自分が意見を書き込むと、友人・知人がコメントしてくれて、それが自分にとっての気づきになっていく。
今回はたまたま、私の意見に肯定的なコメントが多かったですが、別の視点から異なる見解が書き込まれ、
それがきっかけで議論になることもあります。
非常に「コスパ」がいい方法だと思いますので、ぜひ参考にしていただければと思います。

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光村圭一郎(こうむら・けいいちろう)

1979年、東京都生まれ。 早稲田大学第一文学部を卒業後、講談社入社。2007年、三井不動産に転職。 ビルディング本部にて開発業務、プロパティマネジメント業務に従事。その後、2012年より新規事業担当。三井不動産初の本格的なインキュベートオフィス立ち上げを主導。2018年には、東京ミッドタウン日比谷に『BASE Q』を開設し、大手企業のオープンイノベーションを支援するプログラムの提供を開始。